第41話 カブラギとの邂逅

 場所は変わり、グループ3。

 他のグループに連絡を行っていた男性隊員が、前方を見上げながら「だが……」の続きを口にする。


「残念ながら、連れて帰れそうにないな」

 

 そう。

 報告を行う男性隊員の前には……。


「こんなデカいとは聞いてないぞ……」

 

 ジャングルの木々を踏み潰せるほどの巨体を持った、青色の化け物が立ちはだかっていたのだ。

 足は無く、代わりに丸太の如き4本の触手がうごめいている。

 リヴトなんかよりも、さらに大きい。


「レギニカとして生きてきたにも関わらず、なにゆえ人間なぞに手を貸す? 此奴らは身勝手で、愚かな連中なのだぞ」


 巨体の化け物が、グループ3のレギニカ達へしゃがれた声で問いかけた。


「カブラギ……」

 

 レギニカのうち1体が、化け物を見上げながら呟く。


「こいつがか!?」

 

 目の前に立つ異形は、カブラギだったのだ。

 確かに、話し方やうっすらと確認できる顔の形状から、この化け物の正体がカブラギであることに気付くことができる。

 だが、しかし……。

 彼はもはや、人間の面影をほとんど残していない状態であった。

 紫がかった青色の巨体に、脚代わりにうねる4本の触手。

 顔には太い血管が何本も走っており、筋肉の形も人のそれではない。


「前に見た時よりも、ずっと大きい……」

「くくく。驚いたか」


 彼の姿を知っていたはずのレギニカでさえ動揺する有様に、カブラギは歯をむき出し肩を揺らして笑った。


「既に、十体以上レギニカの遺伝子を取り込んだわ。この体はとても……便利だぞ」

「その図体じゃ、コンビニには入れないな」


 上機嫌なカブラギに対し、隊員は冷ややかな言葉を送る。

 その言葉を聞いたカブラギから笑みが消失したかと思うと、腰下の触手が隊員めがけて勢いよく伸びた。

 

「うおっ……!?」

 

 矢のような速さで突き出された触手が戦闘機体へ突き刺さり、何かが割れる音と共に隊員を後方へと吹き飛ばす。

 彼を吹き飛ばした触手の先から、カブラギの顔が浮かび上がっていた。


「ほうら。便利だろう」


 触手の先に浮かぶ顔が、口の端を大きく持ち上げながら言う。

 『カブラギを連れて帰る』という目的は、彼の巨大すぎる肉体によって頓挫した。

 だがその事実が、逆に『駆除班』の隊員達へ火を付けることとなる。


「なら、手加減しなくても良いな」


 立ち上がった隊員が呟き、腕を横へ払うような動作を見せた。

 腕の動きと連動して、戦闘機体から短剣ダガーが金音と共に現れる。

 他の隊員達やレギニカ達も武器を展開し、戦闘態勢を取った。

 

「ふん」

 

 カブラギがあしらおうと動き出した瞬間、レギニカの一体が発砲する。

 カブラギの頭部に、手榴弾が直撃したかのような爆発が発生した。

 爆発の衝撃によって彼は大きく上半身を仰け反らせ、頭部の一部が吹き飛ばされる。

 

 だが、カブラギは倒れなかった。

 それどころか、何事もなかったかのように仰け反らせた上半身を戻す。

 吹き飛ばされた頭部は、断面から肉のようなものがモリモリと生えて再生していた。

 そんな不気味な様子を見た一同に、動揺が走る。


「痛くも痒くもないのだよ。全くな」


 得意げな顔を見せたカブラギは、触手を動かして襲いかかってきた。

 隊員は触手を避けると共に短剣ダガーで斬りかかったものの、やはりすぐに再生してしまう。

 次々と放たれる攻撃を捌きつつ、カブラギは触手をうねらせてフフフと笑った。


「無駄よ、無駄」

「バケモンじゃねーか……だが!」


 いくらでも再生するカブラギを前にしても、隊員達は臆さなかった。

 斬撃。打撃。刺突。爆発。

 あらゆる手段を用いて、どうにかカブラギにダメージを与えようと攻撃を繰り返す。

 だがやはり、カブラギは常に元の姿へ戻っていく。


「鬱陶しい!」

 

 お返しと言わんばかりに、触手による薙ぎ払いが放たれた。

 電柱そのものが襲いかかってくるかのような質量攻撃には、戦闘機体を纏った隊員達といえどあっさり吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされていく隊員達の後ろから、入れ替わるようにレギニカ達が現れてカブラギへ突撃した。


「うおおおおーーーっ!!!」


 レギニカ達は走りながら、それぞれが持ち寄った武器を構える。

 1体が両腕に取り付けた装置を向け、襲ってきた触手へ火炎放射器のように炎を浴びせた。

 焼き尽くす前に吹き飛ばされてしまうが、炭化した触手が衝撃で崩れ落ちる。


「まだまだァ!!」

 

 崩れた触手を潜り抜け、レギニカ達が第二陣の攻撃を放った。

 阻もうとする別の触手を1体が身を挺して受け止め、触手の勢いが弱まった所に槍のような武器を投擲する。

 突き刺さった槍が放電し、カブラギは僅かに苦悶の表情を見せた。


「ぬううっ……!!」


 槍の刺さった触手は、僅かな痙攣を起こして硬直する。


「撃てーーー!!」


 2本の触手を止めた事で接近に成功したレギニカ達が、カブラギに向かって一斉に発砲した。

 着弾するたびに爆発が起き、カブラギの体をえぐり飛ばしていく。


「うおおおっ……!」


 SROFA隊員達は、激しく吹き付ける爆風に耐えるしかなかった。

 四方から放たれる爆発に頭が削り切られ、なおも肉体が砕かれていく。

 ジャングルに灰が落ち、カブラギの胸部から上が完全に消滅した。

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