第42話 ノーヴァス・レギニカ
「はあ、はあ……」
「頭が無くなった……」
爆弾にも匹敵するの威力の兵器を、レギニカ達は片手サイズの重火器として持っているという事実に、隊員達の背筋が寒くなる。
「こいつらが味方で、本当に良かったな……」
隊員の一人は起き上がりながら、素直な気持ちを呟いた。
そして、目の前で硬直しているカブラギの体を眺める。
「カブラギは死んだ……ま、仕方ない」
結局、捕縛は叶わず。
諦観の息を吐きつつ、デバイスを操作して報告を行おうとした、その時であった。
「……?」
ズズズ。
と、何かの引きずられるような音が耳に入る。
顔を上げた隊員の1人が、ゆらりと持ち上がっている触手に気が付いた。
「よっ、避けろぉーーーーっ!!!」
隊員の叫びは、僅かに間に合わず。
掲げられた触手が、隊員達に向かって一気に振り下ろされた。
叩き付けられた触手は地面を砕き、その衝撃波は周囲の木々を軽々と薙ぎ倒す。
「ああぁっ!!」
避けられなかった隊員の一人が、左足首部分を潰されてしまった。
潰れた戦闘機体の脚部にこびりつく血液が、重傷であることを容易に想起させてくれる。
触手は再び持ち上がると、別の触手に突き刺さっていた槍を引き抜いて投げ捨てた。
そしてまた、失われていた胸部から上の部分が再生し始める。
炭化した触手も元に戻り、傷1つない状態へと回帰した。
「嘘だろ……」
果敢に戦っていた隊員やレギニカ達も、流石に絶望の色を見せてしまう。
攻撃をやめた隊員の1人が、カブラギへ素直な疑問を問いかけた。
「お前は……人だったはずだ。何故、同じ人間を攻撃する?」
彼の問いかけを、カブラギは鼻で笑い返す。
「もう、人間ではない」
冷酷にそう答えると、触手を振り上げた。
その時だった。
「!!!」
爆発音にも似た重い銃声が、断続的に鳴り響く。
その銃声に合わせて、カブラギの全身に次々と穴が開いた。
穴の1つ1つが、十分に目視できるほどの大きさである。
「ぬうっ……!」
銃声が止み、再生を開始したカブラギは弾丸の飛んできた方向を睨みつけた。
その先に、重機関銃を載せた片腕をこちらへ向ける戦闘機体の姿を確認する。
『グループ3』ではない、大勢の戦闘機体とレギニカ達であった。
烏賊田の戦闘機体や、美優、叶瀬、千帆の戦闘機体、そしてフラムナトやダスポポまで揃っている。
他のグループが、加勢にやってきてくれたのだ。
「時間稼ぎは、成功した……!」
その光景を見て、『グループ3』の一同は大きな安堵の息を吐く。
対してカブラギは、口元を歪めて面白くなさそうな表情を見せていた。
「大きい……」
カブラギを見上げる叶瀬が、小さな声で呟く。
通信によって彼の姿を見てはいたが、実際に見てみるとその迫力は段違いだ。
2階建ての家にも匹敵する大きさが、生物として動いているのである。
にわかには信じがたい光景だが、理解を拒否する本能をどうにか理性で押し込んだ。
「総員、戦闘態勢!」
烏賊田が張り上げた声を合図に、一同が各々の武器を展開する。
だがカブラギは、動かなかった。
それどころか、体を翻してこちらに背を向ける。
「逃げるのか?」
「まあ、そんなところだ。しかし、案ずるなよ」
カブラギは隊員の1人が放った挑発へ、背中越しに振り向いて笑ってみせた。
そして触手を滑らせるように動かし、ジャングルの奥へと入っていく。
彼と入れ違う形で、木々の暗闇から複数の何かが現れた。
「っ……!?」
現れたものの姿を見た隊員達が、思わず後ずさる。
現れたのは、かつてのリヴトにも酷似した姿のレギニカであった。
それも複数体、10体以上もいる。
「何なんですか……こいつらは!」
「くくく、フラムナト。こいつらは、お前達レギニカの"未来"さ」
自分達と似て非なる異形達に動揺したフラムナトへ、振り返ったカブラギは得意げに説明してくれた。
「私は人間と、レギニカ。それぞれの遺伝子が持つ有用な部分のみを繋ぎ合わせて進化した。そこで私は気付いたんだ。『レギニカ同士で、同じことをできないだろうか?』とな」
「なっ……」
「実験は成功した。最初に誕生したのがリヴトだ。こいつらは……レギニカ同士の遺伝子を掛け合わせた存在。私は『ノーヴァス・レギニカ』と呼んでいる。いずれ『ノーヴァス』の部分は無くなるだろうがね」
カブラギはそう言い残すと、再び翻ってジャングルの奥へ消えていく。
代わりに、ノーヴァス・レギニカと呼ばれた異形のレギニカ達が、馬のような4つ足を掲げこちらに突進を仕掛けてきた。
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