第40話 大型機

 木々が生い茂り、透明な川が流れ苔が生え尽くしている。

 まるで白亜紀へタイムスリップしたかのような景色に、SROFA隊員達は言葉を失って呆然としていた。

 本当に船内なのかと疑いたくなる光景だったが、突き破られた金属の外壁が、箱庭であることを証明している。


「侵入は……成功ですね。ここが、カブラギの船内になります」


 窓の外を眺めていたフラムナトが、突入の成功を口にした。

 烏賊田は手首のデバイスを操作しながら、フラムナトに改めて確認を取る。

 

「……レギニカたちは、カブラギの顔が分かるんだよな?」

「ええ。見れば1発で分かります」

「頼んだぞ。それじゃあ、作戦準備にかかるとするか」


 烏賊田の号令により、一同は続々と下船し始めた。

 SROFA隊員たちは各自で戦闘機体を纏い、レギニカと合流して8つのグループに分かれる。

 叶瀬も戦闘機体を纏った後、船から降り自身に割り振られたグループへと向かった。

 

 グループ内で叶瀬が知っている者は、千帆とフラムナトのみ。

 星乃のいない景色をいよいよ実感して何とも心細かったが、仕方がないと割り切った。

 「よろしくお願いします」と差し出されたフラムナトの手を握り、「よろしくお願いします」と握手を交わす。

 グループ分けが落ち着いてきたところで、戦闘機体のスピーカー部分から烏賊田の声が聞こえてきた。


「各グループのリーダーに、例の爆弾を5つずつ持たせてある。爆弾の位置は共有されているから、お互いに近すぎず遠すぎない……いい感じの所に設置してくれ」


 「そして」と、彼はさらに付け加える。


「カブラギを発見した場合、すぐに捕まえろ。何かあったら、築一連絡するように」

「了解しました!」

「以上だ。では各自、移動開始!」


 その言葉を合図に、各グループは分かれてジャングルへ突入し始めた。

 叶瀬たちのグループも、先頭に続いて木々生い茂る未開の地へと踏み入っていく。

 

 様々な植物が無秩序にひしめいている所は、よくあるジャングルのようだが……実際に入って歩いてみると、強烈な違和感があった。


「……」

 

 こんなにも植物は生い茂っているのに、生き物の気配が全くとしてないのである。

 鳥の羽ばたきや獣の鳴き声、そして昆虫のさざめく音。

 本来であれば聞こえるはずの音が一切なく、草木の揺れる音さえもなかった。

 見た目は真昼のジャングルなのに、深夜の郊外を歩いているような不気味さがある。

 叶瀬は不安を紛らわせるため、隣を歩く千帆に話しかけた。


「あの機体。他のより大きいですね。知ってる方ですか?」

「あん?」


 そう言って指し示した方向を、千帆が追従して睨みつける。

 先にあったものを見た千帆の目は、驚愕によって大きく見開かれた。


「なんだ……あれ?」

 

 二人の視線の先には、少し離れた所で同じようにジャングルを歩く戦闘機体の姿がある。

 だが叶瀬の言った通り、他の戦闘機体に比べて明らかに大きい。

 文字通り、『一回り大きい』サイズをしているのだ。

 ドラム缶のように丸みのあるシンプルな形状をしているものの、その大きさ故に迫力がある。


「見たことないな」


首を左右ヘ振った千帆に、前を歩いていた隊員が答えてくれた。

 

「新しく開発された、最新型戦闘機体の試作品だよ。リヴトっていうデカいレギニカがいたろ? あんなのがまた現れないとは限らないからな」


 確かに、リヴトよりもほんの少し小さいぐらいの大きさである。

 会話に気付いたのか、大型戦闘機体は歩きながらこちらの方へ顔を向けていた。

 そして、「怪しいものではありませんよ」と言わんばかりに手を振ってくれる。


「図体とは裏腹に、気さくな人らしい」


 千帆は半ば呆れたような口調で印象を述べた。

 その時、別動のグループから連絡が入る。

 

「こちらグループスリー。聞こえるか? カブラギを発見した」


 スピーカーから聞こえた男性隊員の報告に、その場にいた隊員達は「おお」と声を上げた。

 だが、そんな彼らとは反対に、スピーカーから漂う空気はどこか乾いている。

 ため息混じりの声色で、報告する隊員は「だが……」と言葉を繋げ始めた。

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