第34話 更なる脅威
数時間前。
臼河をはじめとしたSROFAの『回収班』と、フラムナト達レギニカは星帯侵攻軍の基地を探索していた。
機能を停止したクローンや部品を回収していく中で、一行は基地の管制室に辿り着く。
そこは広い空間の割に、複数のモニターと、中央に長机型の操作パネルがあるだけの簡素な部屋だった。
「ここが中心部か……」
呟きながら部屋へ入り、臼河は中央の長机型操作パネルを覗き込む。
パネルはまだ電源が入ったままで、様々なコマンドが画面上に散らばっていた。
人間には分からない言語であったため、近くにいたレギニカへ助けを求めることにする。
「おーい。これ、点いたままだけど大丈夫そうか?」
臼河に代わり、やって来たレギニカがパネルを操作し始めた。
「……ん?」
その時、レギニカは画面上の違和感に気が付く。
「どこかと通信しているようです」
「!」
彼の言葉に、現場は不穏な空気が漂い始めた。
徐々に集まってきた皆が見守る中、パネルを操作して次々と画面を切り替えていく。
「これは……」
開かれたのは、黒い画面に白で描かれた、略図のような画面であった。
複雑な模様をした円が、いくつも描かれている。
「この星と、周辺の星々とを表した図のようですね」
レギニカの言った通り、人間が住むこの星と同じ惑星系内に存在する惑星群が描かれていた。
そして自分たちの星の端で、赤い光が点滅している。
「今いるここの基地を表しているようです」
「何か線みたいなのが出ているな」
臼河の指摘した通り、この基地を示す赤い光から、1本の白線が外へ向かって伸びていた。
線の向かう先を指で辿っていたレギニカは、その4つ目を大きく見開いて息を呑む。
「っ!?」
線の先にある宇宙空間で、もう一つの赤い光が漂っていたのだ。
少しずつこちらへ近付いてきている……この星にある赤い光と、同様のもの。
それも、何倍も大きいものだった。
「……送っていたんだ、信号を。我々に襲撃された時、彼は既に『応援信号』を……!」
「……!?」
レギニカが呟いた言葉に、一同から動揺を隠せぬ声が漏れる。
彼はパネルを叩いて別画面を呼び出し、通信記録を調べ始めた。
落ちていく砂のように早い記録を全て読み終えると、彼はさらなる事実を口にする。
「カブラギです。信号を送った先の宇宙船は、カブラギの乗っている船!」
「総司令官が乗っている船、という事は……」
誰もが最悪の想像を働かせたが、レギニカはそれを否定しなかった。
「星帯侵攻軍の、全戦力がやって来ます」
画面内でその言葉が響くのを聞いて、千帆は静かに画面を切る。
「この星の重力圏に到達するまで、約2週間だと。そこからは……どうなるんだろうな」
そう言って、眉を顰めて首を傾げた。
彼女も、突然の事態に困惑しているようである。
画面を見ていた叶瀬は、動かぬ顔の下に呆然とした感情を抱えていた。
やっとの思いで星帯侵攻軍に勝ったと思ったのに、その何倍もの規模をした軍団がやってくる。
星乃さんがテッカー症に
空虚な感情はやがて、全ての元凶であるカブラギへの怒りに変わり始めた。
「彼は……カブラギは何故、こんなことを……!」
何故、何故。
レギニカの遺伝子を取り込んだ事で、思考を乗っ取られてしまったのだろうか。
「彼も元は、自分たちと同じ人間だったはずなのに……」
人間だった、はずなのに。
「!」
呟いたその時、叶瀬は1つの疑問に気が付いた。
顔を上げた叶瀬を見て、千帆は首を傾げる。
「カブラギは元々、人間だったんですよね。レギニカとの遺伝子を融合して、今に至っていると」
「昨日聞いた限りだと、そうだって言ってたな」
「人間だったのなら、レギニカと共存することでテッカー症の影響を受けるはず。その影響を、もし彼が受けていないとすれば……」
「!!」
千帆もそこで、ようやく気が付いた。
そうであれば、カブラギは人間の遺伝子を有していながらも、テッカー症の影響を受けていないことになる。
「人間がテッカー症を免れるための、鍵になるかもしれない……?」
「そうですよ!」
千帆の仮説に、叶瀬は勢いよく立ち上がって頷いた。
本当にテッカー症が解決できるかどうかは分からない。
だが少なくとも、カブラギは歪ながら人間とレギニカとを繋げた張本人だ。
『できるかどうかは分からない。けど、私はできる方に賭けたい』
かつて、星乃が言っていた言葉を思い出す。
きっと何かがある。
そう信じたい。
そして星乃さんをはじめとした、テッカー症に苦しむ人々を……。
助けたい。
「行きましょう!」
「どこへ……って、おい!」
昂る気持ちを抑え切れず、叶瀬は勢いよく走り始めた。
そのすぐ後ろを、千帆が小走りで着いていく。
「病院では走るなって!」
彼女の怒り声に背を押されながら、叶瀬は病院を出てSROFAの事務所へと向かった。
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