第29話 テュラレイ
クローン装置から現れたレギニカ達は、先へ行かせないとばかりに奥の扉へ続く道を塞いでいる。
すると近くで立っていた千帆が、我先にクローン達へ切り込んだ。
「らぁっ!」
激しい駆動音を揺らして、腕に装着された長い刃をレギニカの胸部へ突き刺してやる。
間髪入れずに横へ振るい、胸から脇にかけてを引き裂いた。
ぶぢんという生々しい音を立てて、鮮やかな血が弧を描く。
「『捕獲班』が行けよ。大勢を相手すんのは、『駆除班』の方が得意だ」
彼女は戦闘機体の頭部を半分だけ星乃たちへ向けると、首をクイと動かしてそう言った。
そんな彼女に続いて、『駆除班』の隊員達が前へ出る。
次々襲い来るクローンレギニカを、道を開けるように駆除し始めた。
「ありがとうございます!」
『駆除班』に感謝の言葉を述べ、叶瀬、星乃、そして美優の3人は奥の扉へ向かって駆け抜けていく。
立ち塞がるクローンレギニカとそれを退ける『駆除班』の間を掻い潜り、扉の前へ到達した。
閉ざされた扉を拳で破壊し、崩れる壁をくぐって中へ入る。
崩れた壁が吐き出す、激しい煙の中。
「――っ!?」
叶瀬は戦闘機体越しに強い衝撃を感じ、側方へ吹き飛ばされてしまった。
戦闘機体が転がる重い金属の音を耳にして、星乃と美優は警戒態勢を取る。
煙を凝視する中で、星乃がゆらりと動く影を視認した。
「待てっ……!」
反射的に足を踏み出し、影を追う。
だがしかし、別方向から何者かに殴られたかのような衝撃が突き抜けた。
「がっ!?」
後方へよろめきながらも、別方向から現れた新たな影に拳を振るう。
美優の元にも何者かが迫ってきたが、彼女は運良く掴んで殴り返すことに成功した。
肉の感触を感じながら戦闘機体を操作し、2本の補助アームを変形させる。
プロペラの形を作って回転させ、換気扇のように部屋内の煙を掻き出した。
「あんたらは!」
煙が流れていった後には、2体のレギニカと、1体の見覚えのあるレギニカが立っている。
テュラレイだった。
「お久しぶりです」
直剣のようなピンク色の武器を持ちながら、彼はとぼけるように小首を傾げる。
そんなテュラレイを、星乃が睨んでいた。
「信じていたのに……」
「おかげで、予定よりも早く計画が進みました」
テュラレイは嫌味を返した後、武器の切っ先を向ける。
「ただ、あなた方がここへ乗り込んでくるのは想定外でしたね。『ファーザー』は、止めさせませんよ」
そう言った途端、3体のレギニカは一斉に動き始めた。
と同時に、気付いてしまう。
彼らは今まで戦ってきたクローンレギニカと、まるで別物だということに。
「っ!」
ピンク色の鎧を着たレギニカが、叶瀬へ突進を仕掛けてきた。
受け止めようと両腕を大きく開いたが、レギニカは直前でターンして回し蹴りを放つ。
あまりの速さに反応することができず、戦闘機体の顔面部分に思い切り踵が突き刺さった。
「ぐっ……!」
強い衝撃が走り、一瞬揺らいだ所へ追撃の拳をもらう。
さらに2、3度殴られた叶瀬は、反撃するべく腕を振るった。
だがしかし、レギニカは難無くその手首を掴む。
「!?」
そしてそのまま、物凄い勢いで背負い投げをされてしまった。
自分より体格の大きな金属の塊である、叶瀬の戦闘機体をあっさりと。
床に浅いクレーターが生まれるほどの威力で背中から叩き付けられ、中にいる叶瀬は全身の骨が震えるような感触が走った。
「叶瀬くん!」
「周りの心配をしている場合ではないですよ!」
一方的に攻撃される叶瀬に気を取られ、星乃は目の前に立っていたテュラレイの攻撃に反応が遅れてしまう。
「っ!」
反射的に防御するべく立てた腕へ直剣が走り、ゲル状の鎧を裂いて星乃の腕を斬った。
白い腕から溢れる鮮血が、ゲル状の鎧へにじみ出る。
「衝撃への吸収率が高く、小回りも効く。そして……止血も早い」
テュラレイが指摘した通り、星乃の血は既に止まっていた。
ゲル状の鎧に含まれる成分が、彼女の傷口を急速に塞いだのである。
「ですが、刃物にはめっぽう弱いようですね?」
「レギニカの爪くらいなら通さないけど……流石に、ここまでの切れ味は想定していなかったみたいね」
器用に直剣を回しながら指摘するテュラレイへ、星乃は動揺を隠すように言い返した。
彼は返事をすることなく、再び剣を構えて迫る。
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