第25話 仲介者
ダスポポらレギニカ反乱軍と、烏賊田率いる『SROFA』の隊員10名とが、星帯侵攻軍の本拠地へ向かって洞窟内を歩いていく。
各自纏った戦闘機体の足音が、広い洞窟内に鳴り響いていた。
その中で『駆除班』樋口が、隣を歩くフラムナトと話をする。
「つまりアンタらがここに来たのは、つい最近ってことなんすか?」
「そうですね。この前まで、こちらに向かって宇宙を飛行し続けていました」
「だから今まではレギニカが空から降ってきていたのに、前回の大量発生では空から降ってくる姿が目撃されなかったんすね~……」
フラムナトの説明によってまた1つの謎が解け、樋口は問題が解けた学生のように頷いた。
そんな軽いやり取りをすぐ後ろで見ていた星乃が、『げるろぼ』の中でフフフと微笑む。
「なんか良いねぇ、こういう雰囲気」
「人とレギニカが共存するって、こういう感じなんでしょうね」
星乃の隣を歩いていた叶瀬が、戦闘機体でグッと拳を握ってみせた。
フラムナトと樋口のやり取りに憧れを抱いたのか、星乃はどむんどむんと小走りでフラムナトの隣に駆け寄る。
「ねえ。私も聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「構いませんが……」
キラキラした目で迫る彼女へ戸惑いながらも、フラムナトは質問に応じた。
しかし星乃は手段と目的とが入れ替わってしまっていたようで、返事を貰ってからようやく「どうしようかな……」と悩み始める。
顎に手を置いて少し悩んだ後、閃いた質問を彼にぶつけてみた。
「そうだ。人間の言葉は、どうやって学んだの?」
「……!」
思い付いた質問は、かつてテュラレイに回答を拒否されてしまったものである。
その時のテュラレイの言い分は、『レギニカの技術を与えかねないから。外部からの技術供与による発展は危険であるから』であった。
だがしかし、それは嘘だったのではないか? と星乃は考えている。
レギニカ大量発生事件の渦中、総理大臣がリヴトというレギニカに交渉を持ちかけられた時のことだ。
翌日の会議で、総理大臣はリヴトとのやり取りをこう語っていた。
『さらにご丁寧にも、持ってきていた武器も見せてくれました。グミのような質感で軽い、しかしながら非常に頑強で、人類の科学力を凌駕している代物だと感じました』
レギニカの技術による代物を、リヴトは堂々と見せてくれたと言っていた。
知能のないレギニカが『クローン』である、と明かしたことも。
むしろ自分たちの技術力をひけらかしているようだった。
そもそも、彼らの目的が侵略なのであれば、技術供与による影響など最初から考える必要がない。
故に、テュラレイが質問を拒否した理由は別にあるのだと、星乃は踏んでいた。
だから、同じ質問をフラムナトに放ったのである。
テュラレイが拒否した質問を回答することができれば、テュラレイとは違うと、信用に足りる相手なのだということを周知させられる。
だから。
どうか、答えて……!
表面上では軽く尋ねていた星乃だったが、内心ではそう強く祈っていた。
フラムナトは足取りを止めて少し俯いた後、ゆっくりと口を開く。
「我々にこの星の言語を教えた、ある人間がいたのです」
「!」
驚く一同を無視して、思い起こすように話を続けた。
「人間の時間で換算して数年前になります。長距離星間飛行技術がまだ確立されていなかった頃、我々の星に彼が現れました。長距離星間飛行のテストとしてこの星へ送っていた飛行機を完成させ、戻ってきたのです」
「……ん? レギニカたちは、長距離星間飛行が確立される前から、この星を知ってたってことっすか?」
「あぁ、そうです。長距離星間飛行を試みたきっかけは、知的生命体の存在するこの星を発見したからなんですよ」
割って入った樋口の質問に、言い忘れていたとフラムナトが補足した。
レギニカたちはずっと前からこの星を知っており、ここへ訪れるために長距離星間飛行を研究し始め、そのテストとして送り込んだ飛行機を、この星のある人物が完成させて戻ってきた、ということらしい。
「彼はどういうわけか、既に我々のコミュニケーションを理解していました。それにより我々へ、人間の言葉と完成した星間飛行技術を与えることができたのです」
自分たちよりも先に、レギニカと接触した者がいる。
そんな事実を語られ、一同はただ唖然とするばかりであった。
「そんな、スゴい人が……」
「……ですが」
星乃が驚嘆の声を口にしたものの、フラムナトの表情は芳しくない。
不穏な空気が流れ始める中、彼は『SROFA』の隊員たちへ一つの事実を突き付けた。
「彼は今、レギニカ星帯侵攻軍の総司令官を務めているのです」
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