第23話 人数制限

「『ファーザー』による制御を失ったクローンは使い物にならなくなる。そうなれば、残る数体の"本物"と我々との勝負になる。……と言えば、勝ち目が見えてくるでしょう?」

「見えてくるどころか、余裕じゃないっすかぁ! だって我々は、万単位の戦力を持っているんですよ? 数体のレギニカを殺すなんて、簡単じゃないですか!」


 『駆除班』の若い男性隊員が高揚気味に声を上げたものの、ダスポポの反応は芳しくなかった。

 彼は言いづらそうに口を噤んでいたが、気付いた男性隊員が静まり始めた頃に口を開く。


「そう簡単な話でもないのです」


 好転しかけていた場の空気が、嫌なものを感じて留まり、再び張り詰め始めた。

 「どういうことだ」という烏賊田の問いを受け、彼はその言葉の先を語る。


「人数制限が、ございます。多く見積もっても……10名」

「10名……!?」


 ダスポポの出した数字へ誰かが反応すると同時に、張り詰めていた空気は一気に爆ぜ、不穏なざわつきを生み出した。

 10名。たった10名だ。

 今この場にいる、フラムナトらレギニカたちの数よりも少しばかり多いだけ。

 現場が動揺に苛まれる中、ダスポポはそのわけを話す。


「フラムナトから聞いたかもしれませぬが、通常の洞窟から先へ行けばクローンの大群に襲われます。ですので星帯侵攻軍の本拠地へは、この洞窟の奥に掘ってある穴から侵入する予定なのですが、そこにあるセキュリティが厄介で」

「セキュリティ?」

「『生きているレギニカの細胞』にしか、反応しないのです」


 すなわち、人間は侵入できないセキュリティというわけだ。


「我々とあなた方とで入り混じって通ることで、ある程度のは効くのですが、異物の混入が多すぎると流石に気付かれてしまう。よって、多くても10名、と申し上げました」

「他のルートから侵入することはできないのか?」

「外壁はすべて、同じセキュリティに阻まれております」

「物理的に破壊するのは」

「それこそ、気付かれてしまいましょう」


 代案を求める烏賊田だったが、ダスポポは首を横に振るばかりである。

 烏賊田は困ったように息を吐くと、手首のデバイスに話しかけた。


「……だとよ。皆はどう思う」


 声と連動する形でデバイスが光を放ち、プロジェクターのように虚空へ映像を映し出す。

 巨大な架空画面の中には、縦穴直通の洞窟内で待機している隊員達の姿があった。

 これまでの行動や会話は、全てデバイスを通して全員に共有されていたのである。


「怪しいです! ただでさえ信用できないのに、10名の精鋭を選んで突入させろだなんて……」

「だったら他に案があるのかよ? こいつらが言うには、普通に行けば大量のクローンに襲われるんだろ?」

「『駆除班』はレギニカが何体いても怖かねぇよ! それに、普通に行ってほしくないから言ってるだけかもしれねぇだろ」


 隊員たちの意見は様々に分裂し、あちこちで口論が勃発し始めた。

 声は連鎖的に大きくなっていき、収拾がつかなくなっていく。

 そんな時だった。


「僕、やります」


 張り上げた声でもないのに、やけに鮮明な声が通る。

 声の主は叶瀬だった。

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