第22話 フラムナトの同胞たち

 本部に集まっていた人たちを連れて、フラムナトが洞窟の先を歩く。

 しばらく歩いて、唐突に足を止めたかと思うと、側方にある岩壁へ手を触れた。

 何の変哲もない、岩壁である。


「ここに、私の同胞たちが隠れています。……そこから先へは行かないで! 星帯侵攻軍のクローンたちが、無数に待ち構えていますよ」

「えっ、ああ……すまない」


 勝手に先へ進もうとした隊員を強い口調で引き留めながら、フラムナトは触れていた手を岩壁へ押し込んだ。

 

 すると。

 がごん、という重い音が響き、岩壁の一部が切り取られたかのように外れる。

 ただの岩壁だと思っていたものは、隠し扉だったのだ。


「どうぞ」


 先導して入っていくフラムナトに促され、一行は隠し扉の先へ踏み入っていく。

 隠し扉があるとまるで気付くことができず、テクノロジーの差を実感してしまった隊員たちは、気まずそうに互いの顔を見合わせた。

 クローンに、総理大臣が言っていた謎の武器、そして隠し扉。

 レギニカたちの技術力は確実に、人類を凌駕しているのである。

 

 隠し扉から伸びる細い洞窟を進んでいくと、水の流れる開けた場所へ到達した。

 その先に、複数の大きな影が座っている。


「っ……」

 

 青く、関節の継ぎ目がないしなやかな肉体……後ろ姿だけでも分かる、レギニカだった。

 内の1体が、フラムナトらの足音に気付いて振り返る。

 

 振り返ったのは、しわだらけの年老いたレギニカであった。

 

「おお。よくぞ……」


 フラムナトの姿を見上げた彼の声に反応し、周囲にいたレギニカ達も振り返る。

 その数は、片手で数えるほど。

 フラムナトは手で示しながら、彼らの紹介をしてくれた。


「こちらが私の同胞。レギニカ星帯侵攻軍を止めるべく潜伏している工作員、反乱軍です」

「リーダーを務めさせて頂ておる、ダスポポと申します。よろしく」


 ダスポポと名乗ったしわだらけのレギニカが、その大きく枝のように細い手で握手を求めてくる。

 烏賊田は一瞬躊躇したものの、最後には鉄の手のひらでしっかりと握り返した。


「ここへ来たということは、ご協力の意思を示して頂いたということで、よろしいですかな」

「一応、ですがね。……それで、どうやって星帯侵攻軍を止めるつもりなんです?」


 いきなり本題へ入ろうとする烏賊田に、ダスポポはうんと頷いて説明する。


「ハッキリ言って、あなた方が総力を使っても星帯侵攻軍には勝てませぬ。人間はまだ、クローン技術の使用には倫理的な問題が多く絡んでいるでしょう。無尽蔵にクローン兵を作り出せる星帯侵攻軍に挑むのは、無謀とも言えるでしょうな」


 そこまで前置きをしたダスポポは、「ですが」と付け加えた。


「逆に、彼らはクローン装置に頼りすぎている。星帯侵攻軍のほとんどはクローンであり、本物のレギニカは我々よりも少し多いくらいです」


 突如明かされた事実にざわめく人々を無視して、彼はさらに続ける。


「そしてクローン群は、『ファーザー』と呼ばれる機械が一括で指示を出しておる。細かい動きはできませぬが、奴らがある程度の指向性を持って行動できるのは『ファーザー』のおかげだ」

「つまり、『ファーザー』を見つけて壊せば、クローンたちの機能を停止させられる?」


 隣から予測を割り込ませてきた美優へ、ダスポポは指を差しながら何度も頷いた。

 当たったようである。

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