第21話 駆除斑の選択
「えっ……!?」
星乃が無意識に発してしまった驚嘆の声など、気にする様子もなく。
烏賊田は鋭い眼をもって、刃を少しずつ、フラムナトの胸の中心へ近付けていった。
「待っ……」
思わず飛び出そうとした星乃の腕を、誰かが掴んで止める。
振り返ると、そこには彼女に追いついた千帆が立っていた。
「アンタが止めに入ることも、奴が想定していたとしたら? またアンタが原因で、人に迷惑をかけることになる」
「……!」
単なる私怨だけではない落ち着いた説得に、星乃は思わず言葉を詰まらせてしまう。
同じく追いついていた叶瀬や美優に助けを求めたが、彼らもまた、今の星乃と同じように、どうすれば良いのか分からないという様子であった。
そんな間にも、烏賊田の刃はフラムナトに近付いていく。
そして、青い皮膚に刃先が食い込んだ。
ブツッと何かが切れる音と共に、血が刃を這って落ちていく。
「ぐうっ……!!」
苦悶の表情を浮かべるフラムナトを見て、『捕獲班』はごくりと唾を飲んだ。
烏賊田の刃は、さらに深く刺し込まれていく。
そんな時だった。
烏賊田が突然その腕をばっと引き、フラムナトの体から刃を抜き出す。
「やめた」
僅かな血が滴り落ちる中で、彼は小さく呟いた。
その場にいた全員が、一瞬理解できずに固まってしまう。
星乃や千帆、叶瀬や美優はもちろん、フラムナトでさえ困惑し、薄らと目を開け始め状況を確認しようとしていた。
凍り付いた空間を溶かしていくように、烏賊田が口を開く。
「俺だって、好きでレギニカを殺しているわけじゃない。必要だと思ったから、今まで『駆除』をしてきた。……今回は必要だと思わなかった。それだけだ」
目を開けたフラムナトの前でそう言うと、下がりながら戦闘機体を解除しドカッと椅子に腰かけた。
彼は脚の上に肘を置き、手の甲に顎を乗せて彼を見上げる。
「お前の度胸に免じて、話を聞いてやる。裏切ったら、その胸の傷をさらに深くするからな」
フラムナトの処遇を決める言葉が、告げられた。
告げた烏賊田の、厳しくも温かみのある瞳に、フラムナトは4つの目から大粒の涙をこぼして崩れ落ちる。
「ありがとうございます。ありがとうございます……!!」
号泣しながら何度も感謝を口にするフラムナトの姿に、星乃もつい目頭が熱くなってしまった。
叶瀬も表情こそ変わらないが、内心とても安心している。
2体目の『喋るレギニカ』は、受け入れられたのだ。
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