第18話 大穴

 そしてついに、その日が訪れる。

 『捕獲班』の面々は、軍用四輪駆動車の中で揺られていた。

 美優が助手席に、星乃と叶瀬が後部座席に、そして……。


「はぁ。なんでアタシがこいつらと……」


 叶瀬の隣。

 星乃とは反対側の席に、千帆が不機嫌な態度で座っていた。

 星乃、叶瀬、千帆の順番で、三人がけをしている状態である。


「悪いね〜、ちょうど人数の関係でさ」


 助手席から振り返った美優が謝ると、持っていたタブレット端末のメッセージを読み始めた。


「既に調査は始まってるみたい。高さ約500メートルの大穴らしく、底は洞窟みたいに横へ広がってるんだって」

「レギニカは?」

「まだ、見つかってないそうね」

「そっかぁ」


 美優に質問する星乃を、千帆が腕を組みながら睨む。


「レギニカを殺したことも無いのに、戦えんのか?」

「う〜るさいなぁ。言っとくけど、捕獲する方がよっぽど高等技術なんだからね? わざわざ命を奪わなくたって戦えるよ〜」

「お前っ……」


 言い返してきた星乃と、叶瀬を挟んでぎゃいぎゃいと争い始めた。

 挟まれている叶瀬は背中を座席へ押し付け、できるだけ被害を被らないような姿勢を取る。

 運転していた軍用迷彩服の男性が、そんな状況をバックミラー越しで微笑ましそうに眺めていた。


「はっはっは、元気ですね。我々のような軍事組織隊員たちは国内外から集められていますが、あくまで役割は支援です。レギニカにタイマンで勝てる、SROFAの皆さんが中心なのでね。その元気をぶつけてやって下さい」


 彼はそんな言葉を後ろへ投げると、ブレーキペダルを踏んで徐々に減速し始める。

 気が付けば目的地に近付いていたようで、大勢の人や車両などが見えてきた。


「おはよーございます……」

 

 ベースキャンプへ到着した4人は、出迎えた『駆除班』班長の烏賊田に挨拶をする。

 気分の悪い表情を維持している千帆と星乃を見て、彼は苦笑いを浮かべた。


「はっは。随分と仲良くやってたみたいだな」

「間に挟まれていたので、大変でした」

「大役、お疲れ様」


 叶瀬が呆れたように代弁すると、烏賊田は肩をすくめておどけてみせる。

 

「"入口"へ、案内してくれるのよね?」

「ああ。ついてきな」


 美優の質問に頷くと、彼は首を少し傾けて追従を促した。

 



 ベースキャンプから少し歩いた先に、沢山の人や機械やらが集まっている。

 彼らを通り抜けて出た先に、"それ"は存在していた。

 ビル1つを丸ごと飲み込めるくらいの、あまりにも巨大な大穴。

 穴の中はまるで夜の海のように、全く見えない状態であった。

 簡易的に建てられたコーンバーの手前で、叶瀬は呆然とそれを眺める。


「これが"レギニカの発生源"……」

「実際に出てきたのを見たわけじゃないから、憶測に過ぎないがな。こんな不自然すぎる穴を見つけちまったら、確信するだろ」


 叶瀬の驚きへ同調するように、烏賊田が頷いた。

 高所恐怖症の人が泡を吹いて倒れてしまいそうな威圧感が、そこにある。

 多少の凹凸はあるものの、全体的に切り立った様相の崖面は、明らかに自然から発生したものではなかった。

 その一端に、何やら大型の装置が取り付けられている。


「あそこが昇降機だ。深さ500メートルまで降りられるようにするため、えらく苦労したらしい」

「じゃあ早速、穴を降りましょ」


 烏賊田が指を差して解説をした後、一行は昇降機へ向かっていった。


 


 ごうん、ごうん。

 昇降機の重苦しい機械音が、大穴の壁面によく響く。

 あまりにも大きな昇降機に乗って、烏賊田達一行は他の隊員や機械と共に穴を降りていた。

 普段見ることのない大型工業機械の底力に、叶瀬はこんなことまでできるのかと感心してしまう。

 先ほどまでいがみ合っていた姿はどこへやら、星乃と千帆も穴の中を見上げて感嘆の声を発していた。


「ほへぇ~……すごいなぁ。レギニカたちはここから、地上へ来てたんだ」


 徐々に遠のいていく地上の光が、恐ろしくも美しく感じる。

 地上の光がほとんど届かなくなってきた頃に、誰かが電気を点けた。

 ぼやっとした光に包まれながら、さらに暗い穴を降りていく。

 その時だった。

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