第13話 リヴト

 目の前のレギニカを制圧して一安心……と思っていた星乃たちだったが、足元で地響きが発生している事に気が付いた。


「!」

 

 『げるろぼ』の表面を小さく震わせるだけだった地響きが、少しずつ着実に激しさを増していく。

 

 と、次の瞬間。

 

 ばがん!

 前方にあったアスファルトの道路が突き上げるように八方へ砕け、その下から巨大な何かが地上へ現れた。


「何!?」


 現れたものは、四つの目と青い肌を有する生き物。

 レギニカに似た特徴だが……それはレギニカなんかとは全く異なる姿形をしていた。

 

 太い四つの脚で体が支えられ、その上に上半身がくっついている。

 言うなれば、ギリシア神話に出てくるケンタウロスのような姿だ。

 手には奇妙な形をした、青い薙刀のような武器が握られている。

 そして何より……その肉体は、レギニカや戦闘機体よりも、遥かに大きかった。

 叶瀬が肩車をしてようやく届くかという大きさのレギニカから、さらに二周りほど大きい。


「っ……」


 見た事もない姿に絶句する三人へ、謎の生物は大きく息を吸い込んだ。

 そして。


「私は星帯侵攻軍指揮官長せいたいしんこうぐんしきかんちょう、リヴト・ブルアクタなりいィィッッ!!!」


 吼えるように。

 張り裂けんばかりの野太い声量で、名乗りを上げた。


「っ!? こいつも……」


 テュラレイに続く2体目の『喋る人外生物』の存在により、一気に緊張が走る。


「手合わせ願おう」


 リヴトと名乗った生物は短くそう告げると、馬のような前脚を掲げて薙刀を振り上げた。

 脚を上げただけでぶわりと空気が動く感覚に、3人は一瞬で危険を察知する。


「むうんッ!!」


 そしてリヴトは前脚を振り下ろすと同時に、薙刀による横一閃を放った。


「ぐぅっ……!?」


 軌道上に立っていた叶瀬の機体へ、薙刀が直撃する。

 機体はバキィ! とへし折れるような音を立て、中の叶瀬ごと吹き飛ばされてしまった。

 破片を散らしながら、後方の建物へ勢いよく激突する。


「叶瀬くん!」


 吹き飛ばされた彼を追って思わず振り返った星乃は、リヴトの影が自身を覆い尽くしている事に気付かなかった。

 奴は既に二撃目を放つべく、再度巨体を持ち上げていたのである。


「やばっ──!?」


 直感で察してしまった。

 避けられないということを。


「星乃!」

 

 しかし、横から現れた美優が彼女へタックルを放ち、直撃は免れた。

 美優の戦闘機体に付いていた補助アームへ薙刀が当たり、いとも容易くへし折れる。

 追撃を警戒してすぐさまリヴトの方を向いたが、リヴトはこれ以上戦闘をする意思は無いとでも言うように、直立して薙刀を納め、自身の手のひらを見つめていた。


「これほどの力か……」


 それだけを呟いた彼は巨体を翻すと、星乃たちを無視して先へ走り始める。

 美優と星乃は止めようと動きかけたものの、彼の圧倒的な走力にまるで追いつけなかった。

 道路を窪ませながら駆けていくリヴトの後ろ姿が、みるみるうちに小さくなっていく。

 2人は追う事を諦め、リヴトに吹き飛ばされてぐったりとしていた叶瀬の元へ駆け寄った。


「叶瀬くん、大丈夫!? ……じゃ、なさそうか」

「怪我は無いです、……っ!」


 星乃の呼びかけに応じて体を起こそうとした叶瀬だったが、ずきりとした頭痛が差し再び瓦礫へ背を預けてしまう。

 少し離れて携帯端末を操作していた美優が、小さな舌打ちをしながら2人の元へ走ってきた。


「ダメね。救急も、本部も、どこにも繋がらない」


 無数の反応があったのだ。どこも叶瀬たちと同じような状況で、混乱しているのだろう。

 美優は開けていた戦闘機体のハッチをガシャリと閉じると、2人に背を向けて指示を出した。


「ちょっと辺りの救助してくるわ。叶瀬くんはそこで休んでて。星乃も、一緒にいてあげて」


 じゃ。と告げると、悲鳴の聞こえる方向へ走り出していく。

 ハッチ部分を開けた叶瀬が、苦しさを内包した声で星乃に謝った。


「すみません。大変なことになっているのに、足を引っ張ってしまって……」

「しょうがないよ、私も危なかったし。それに……癪だけど、きっと駆除班がなんとかしてくれるよ。あの人たち、超強い上にいっぱいいるから」


 安心させるための空笑いを作ると、星乃は叶瀬の隣へ座り込んで一息つく。

 大混乱の喧騒を背景に少しぼけっとしていた2人は、視界の端に複数体のレギニカを見た。

 星乃が叶瀬を庇う形で立ち上がると、奴らがこちらに来ないか警戒する。


 ……と、そんな時。


「!」

 

 レギニカたちの元へ、1機の戦闘機体が現れた。

 その四肢は細長く、白と真紅の装甲を纏っている。


「ったく、どんだけいんだよ……!」


 その戦闘機体は、千帆のものだった。

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