第12話 出現

「!!」


 異常な現象に凍り付いていた2人は、突如響いた破砕音に反応して顔を上げる。

 窓から音のする方角を覗くと、レギニカが建物の壁を破って道路へ姿を現していた。

 それだけではなく、さらに2匹、3匹、そして4匹と破られた穴から出現する。

 

「マジにいっぱいいるみたいね……!!」


 目を見開きながら呟いた美優は、ブレーキをかけながらハンドルを切り、横向きに車を急停止させた。

 車が止まり切る前にドアを開けて道路へ出た3人は、即座に手首のデバイスを起動させる。


「とりあえず、見える範囲のものから解決しないと」


 そう呟いた美優の体を、デバイスから生み出された液体金属のようなものが包み込んだ。

 包まれた部分からにじみ出るように、分厚い装甲が現れる。

 生み出された装甲は、重い金属の音を奏でて次々と組み立てられ始めた。

 穿山甲センザンコウを思わせる何重にも重ねられた鎧が組み上がり、肩甲骨の部分から一対の補助アームが飛び出す。

 

「おらぁ! お前らの相手は、私達だぁーーーっ!」


 美優は機体越しに、芯の通った野太い声をレギニカ達へ放った。

 続いて戦闘機体を纏った叶瀬や星乃と共に、振り返ったレギニカたちと対峙する。

 レギニカは合計4体。

 向こうの方が1体多いが、戦闘機体はヤワじゃない。


「行くぞっ!」


 美優の声を合図として、3人は一斉に走り出した。

 先陣を切った美優の補助アームが、前に出てきたレギニカの腕を掴む。

 掴んだ腕を捻って腹部を無防備にさせると、ズドン! と腰の入った拳を叩き込んだ。

 怯んだレギニカの肩を即座に掴み、頭突きを放つ。


「グウウッ!」


 金属質の頭突きに仰け反ったレギニカは、補助アームを払い除けて反撃のアッパーカットを返した。


「くっ!」

 

 両者、一進一退の攻防が続く。


 一方で、叶瀬は別のレギニカと真正面から掴み合っていた。

 冷却機能を駆使して凍らせようとするも、頭部にハイキックを受けてよろめいてしまう。

 軽やかな動きで次々と攻撃を仕掛けてくるレギニカに、叶瀬は徐々に押され始めていた。


 さらにもう一方では。

 『げるろぼ』を纏った星乃が、2体のレギニカを同時に相手にしていた。

 片方の薙ぎ払うような引っかきをスウェーで避けた彼女だったが、もう片方による側方からの蹴りで突き飛ばされてしまう。


「うおっ……!」

 

 しかし『げるろぼ』はその体が持つ弾力によって地面を跳ね、衝撃を大きく吸収した。

 即座に姿勢を取り戻すと、殴りかかってきたレギニカの追撃を腕で受け止める。

 どむん! という質量ある柔らかい音が響き、『げるろぼ』の体表がぶるぶると振動した。


「だあっ!」


 星乃は体を大きく傾けて蹴りを食らわせると、仰け反ったレギニカへ拘束弾を放つ。

 拘束弾が片腕と腹部とを一周する形で絡み付き、バランスを大きく崩させた。

 倒れるレギニカを横目に、接近してくるもう一体と対峙する。


「ぃよっ!」


 頭部を狙ったレギニカの攻撃を屈んで避けると、低い位置から突き上げるような回し蹴りをお見舞いした。

 ゼリー状の蹴りはレギニカの目元に直撃し、レギニカは自身の頭に引っ張られる形で吹き飛んでいく。

 その先には、既に戦闘を終えて叶瀬の支援に回っている美優の姿があった。


「危ないなぁ」

 

 叶瀬が戦っているレギニカへ拘束弾を放ちつつ、彼女は飛んできたレギニカを補助アームでキャッチする。

 受け止めたレギニカに間髪入れず拘束弾をかけ、一瞬でその身動きを封じた。

 片腕だけが拘束されていたレギニカも星乃が全身を拘束し、全てのレギニカが制圧された事を確認する。


「ふう。2体同時に相手するのって、未だに慣れないなぁ」

 

 もがくレギニカを見下ろしながら、星乃は中で額の汗を拭い息を吐いた。

 2体同時の相手も危なげなくこなす彼女に、叶瀬は改めて経験値の差を実感する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る