第12話 猪熊との再戦

 誠が決意を新たにしたある日、自宅の部屋でこたつに暖を取りながらくつろいでいると、うとうとして眠りに落ちた。誠は長い夢を見た。それは滑稽で痛快な、猪熊との戦いの夢だった。


 夢の中で、誠は猪熊との戦いの作戦を練っていた。誠は考えた。猪熊と戦って勝つには、明らかに劣勢な戦力の差をどう埋めればいいのだろうか。誠は考えた。今のままでは猪熊には勝てない。誠は戦いが始まるまで時間があまりなく、その間に何とかしなければ。しかし、普通の考えではその穴は簡単には埋まらない。誠はそのことに焦りと迷いが募るばかりだった。


 長い夢は戦いの始まりへと移っていった。誠は夢の中の自分の部屋でカラーボックスの簡易本棚をじっと見ていた。本棚の陰にある名刺サイズのカードが入ったケースに手を伸ばした。ケースの中には五人の名前と連絡先が記された5枚のカードがある。

 そのうちの一枚は亡くなった人のもので、それを除いて残った四枚の中から一枚を手に取った。誠は思った。私を覚えているだろうか。誠は迷った末に携帯を手に取り連絡した。誠は夢の中でその相手とつながった。


 夢の場面が変わり、猪熊との戦いの準備が整うと、誠は支援員が少ない今、猪熊との戦いを始めることにした。誠は光ちゃんと綾香を後方に下がらせて戦いに巻き込まれないようにした。悠作は後詰めで、誠が猪熊より優勢になった時戦いに参加する手筈だった。


 誠は戦う。作業所「ハトさん」の昼休憩時間に猪熊に戦いを挑むため、リサを連れて作戦を開始した。程なくして誠とリサはターゲットの猪熊を捉えた。誠はリサと共に猪熊に戦いの火蓋を切った。

 誠とリサは用意された因縁を猪熊にぶつけて戦いを始めた。「おいコラ、猪熊、いい気になってんじゃねぇぞ!」誠はそう怒鳴り、猪熊に目を向けた。リサは可愛らしく「なめんなよ」と言った。「?」猪熊は驚いたが、「デメェなんか怖くねぇぜ」とばかりに反撃した。

 

 睨み合いの中で、視界の広いリサが猪熊の仲間たちが応援に来たと誠に耳打ちした。「ん」誠の勢いは少し失われていた。すると誠はリサに「安全なところに行くように」と言った。リサはマコたんが大丈夫なのかと思っていたが、怖くなり言われた通りに後退した。誠はその後簡単に三人の人間に囲まれた。リサは思った。マコたん全然大丈夫じゃないじゃん。しかし誠は全然臆する様子が見えない。リサは思った。マコたんには何か策があるのだろうか。

 

 猪熊の仲間は誠の胸倉を掴んで左右に大きく揺さぶった。「ヘヘッ、おめぇ、ションベンちびったか?」猪熊は誠に下劣な言葉を浴びせた。配下の二人も誠を小馬鹿にしてはしゃいでいた。猪熊が調子に乗って吠えた。「世の中は力の強い者が勝つんだよ。てめぇみたいな奴は強者の餌なんだよ。おい、何だよその目つき、魚の腐った目だてばよ」と。猪熊は誠を吊し上げてやりたい放題だった。

 リサは「こりゃダメだ」とがっかりしながら成り行きを見守った。誠は敗北に向かって孤立無援の絶体絶命の窮地だった。その時だった。大きな影が動いた。「ガサガサ」と物音がした。

 

 誠は思った。来たか。その時突如大男が現れた。男はすぐに猪熊の仲間たちの二人を相手に恐ろしい形相で「ウラ、ウラ」と叫びながら迫った。猪熊の仲間たちは驚いて応戦するが、男は大きな体で目の前に立ちはだかり恐ろしい形相で相手を威圧した。すぐにお互い睨み合って対峙すると、その男は何も言わず猪熊の仲間たちの前でポキポキと指を鳴らして見せた。猪熊の仲間たちはその行動に「男が何をするか分からない」という言い知れぬ恐怖に震え始めた。


 猪熊の仲間たちはその男に痛みの伴う暴力を振るわれるのではないかと怯え浮足立った。少しずつ猪熊の仲間たちは後ずさりしていった。猪熊が「お前ら逃げるんじゃない」と大声で言って猪熊の仲間を踏み留まらせようと鼓舞する。男はそれを見て  「おおおー」と雄叫びを上げると、猪熊の仲間たちは「もうやってられない」と恐怖を感じ猪熊を投げ出し一目散に逃げた。

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