第11話 誠の凱旋

 猪熊の勢いが際立っている最近、その正反対の誠は毎日悲痛な思いを抱えていた。しかし、意外な出来事が彼をその状況から救い出した。


 ある日、感情が読み取れない光ちゃんが誠のそばに来て、小さな声で言った。「色々と教えてくれてありがとう。僕はマコたんがいないとダメなんだ」。光ちゃんは自分が必要とされていると感じているようだったが、誠には自分が必要とされているとは思えなかった。


 「そんなはずはない」と誠は光ちゃんを真剣に見つめ返した。誠が突然笑うと、光ちゃんも誠の笑い声につられて笑った。誠は光ちゃんに言った、「光ちゃんの好きなテレビ番組Mステを見よう」。「そうですか、面白いですよ」と光ちゃんは答えた。


 その一言で誠は自分が一人ではないことに気づいた。そのことで彼の心はヒーロー惑星の殻を離れ、元気を取り戻し始めた。


誠と光ちゃんが結びつくと、綾香とリサが集まってきた。リサが誠に声をかけた。「マコたん、元気になった?」。「まあね」と誠は答えた。リサは心の中で元気になった誠を喜んでいた。


リサはもしもの時を決めていた。マコたんが辞めたら、私も辞めると。リサの思いは、誠を愛し、守りたいという強い感情だったが、それを誠や仲間たちに上手く伝えることができないでいた。


そこに悠作がやってきて、照れくさい笑いを浮かべながら「やあ、やあ」と言った。「マコたん、また一緒に勉強しよう」と悠作は誠に提案した。「ああ」と誠はにっこり笑って答えた。

 綾香は誠の周りに集まる人々を見て、誠がこの局面を自力で切り抜けられると確信していた。「私はあなたの理想に賭ける」と彼女は思った。誠は皆の前でつぶやいた。「私が立ち上がるのを待っていたのか?」悠作は「そうだよ」と答えた。「リサポンも、光ちゃんも、綾香も待っていたのか?」と誠が尋ねると、リサは代表して大声で「待っていたわよ」と答えた。仲間たちは皆、にっこりと笑っていた。誠は遥か遠いヒーロー惑星から凱旋した。


 誠には心から湧き上がる熱いものがあった。誠と仲間たちは再び結束した。光ちゃんは誠の復活を喜び、「チョー、チョー」と言いながら拳を天に突き上げた。彼らは急速に元の勢力を取り戻していった。そして、以前よりもさらに大きな力がそこにあった。


「いいんですか?」と信義が猪熊に尋ねた。緊張感のない寅蔵は眠っていた。猪熊は誠たちの変化を感じていたが、「どうせまた軽く潰してやる」と考え、有効な手を打つことはなかった。「馬鹿野郎」と猪熊はクロウを張りセンで痛めつけ、悦に浸っていた。猪熊は誠を甘く見ていた。


そこで誠は、猪熊から奪われた縄張りを取り戻す作戦を練り始めた。力とは何かと考える誠。確かに、猪熊と戦う時には、猪熊だけでなく、その上のルールを作る強い人たちの大きな力が邪魔になる。それを避けるには、ルールを作る強い人間「支援員さんたち」の動きに注意しなければならないと誠は考えた。しかし、その種の力は完璧ではなく、強力ながらも最初はゆっくりとしか動かせず、その力のインパクトが決まるまでには時間がかかる。その大きな力が誠の頭上に落ちる前に、猪熊を倒せば、この勝負に勝てるかもしれないと誠は考えた。


誠は確信した。勝って、安心して仲間たちと過ごせる自由な世界を取り戻そうと。誠は時間との勝負に賭け、短期決戦で猪熊との対決を決意した。





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