第10話 猪熊に敗北
しばらくして、誠の心は猪熊に負けた現実に耐えられず、男の心の奥深い世界、ヒーロー惑星へと旅立った。
残されたリサは、「えっ」と驚きながら、誠の心が手の届かない所へ行ってしまったことに号泣した。
気が付くと、リサのそばに綾香がおり、彼女を慰めていた。リサは綾香に訴えかけた。
「彼のもとへ行って、慰めてあげなくては……」
綾香は首を振り、「誠の心が私たちのところに帰ってくることを信じましょう」と言った。
リサにはそれが正しいとは思えず、誠の元にいて彼の悩みを聞き、慰め、応援することが正しいと感じていた。
しかし、心の奥深いヒーロー惑星に旅立った誠との心の交信はうまくいかなかった。
悲しみに涙を流すリサのそばで、綾香も一緒に泣いた。
やがてリサは落ち着き、綾香の言葉に頷き、誠の様子を遠くから見守ることに決めた。
その後の誠は魂の抜けた虚ろな人間となり、作業所の皆は彼の不甲斐ない様子に呆れ、相対的に猪熊の評価が上がった。
「我らのボスは猪熊様だ」という声が高まり、誠が一生懸命作り上げた「マコたん・ブランド」は猪熊によって崩壊した。
誠は「マコたん・ブランド」を再建しなければならなかったが、自ら行動を起こす気にはなれなかった。
支援員のソルトさんはこの事態を黙認し、事務室でも有効な対策が打てなかった。
誠は痛感した。幸せの果実を作っても、猪熊やその仲間たちに奪われてしまうだろうと。
誠の心には猪熊の恐怖が心のキャンバスを覆うように広がっていた。
その頃、悠作と綾香は元気のない誠の代わりに他愛もない会話で仲間たちを楽しませ、作業後はトランプ遊びで誠の穴を埋めていた。
一方、誠に勝った猪熊は得意絶頂となり、作業所で「俺は『ボス・キャラ』で、とても偉い人間だ」と自慢し、作業所の皆に武勇伝を語って満足していた。
作業所の皆は猪熊の話に感嘆し、猪熊はその反応に喜んでいた。
そんな中、誠は猪熊に敗れたことで大切なものを全て失い、心の弱さに苦しんでいた。
冬の寒さに震えながら、自分の苦しみについて考えていた。自分は無力な人間だと感じていた。
深呼吸の後、誠は自宅のコタツを熱くして寒さをしのぎ、卓上鏡で自分の顔を見た。
無精ひげが生え、疲れた様子の自分を見て、過去の辛い経験を思い出し、落ち込んだ。
それは一般社会でルールを作る強い人間に排除された経験だった。
猪熊の背後には、支援員のような強い人間のプレッシャーを感じていた。
そういった人たちの背後には大勢の大人や世の中があり、社会人の時よりも生きづらさを感じていた。
誠は猪熊の背後にある恐怖の源泉を知っていた。
どう対抗するかは、猪熊だけでなく、その上の支援員の「容易に知ることのできない考え」に影響される。
誠は考えた。猪熊に対抗する力の源泉は漬物切りの仲間たちだったが、その源泉は猪熊に奪われていた。
「俺は弱い」と認め、猪熊との戦いで落ちぶれた自分を仲間たちは軽蔑していると感じ、自分の殻に閉じこもっていた。
リサは誠の友達の悠作のところに行った。
悠作に誠を励ましてもらうために。
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