第9話 猪熊との戦い
猪熊は誠たちと戦うために戦闘準備を整えたある日のことである。
作業室で昼食を終えた後、一時間の休憩時間が始まり、支援員たちは事務室に戻っていった。
すると作業室は人がまばらで静かになり、猪熊たちは戦いを仕掛ける絶好の機会を得た。
この場所は作業所の建物の中で最も大きな部屋である。
そこには台所の流し台、冷蔵庫、最新式のオーブン、テーブルや椅子が多数ある多目的室であり、作業場としても使われている。
余談だが、作業室の外にある風除室は喫煙室となっており、喫煙者たちはそこで寒さに震えながら毎日タバコを吸っている。
一方、誠とその仲間たちは静かな休息室に集まり、楽しく雑談しながらその日の疲れを癒していた。
「お疲れ」
「はい」
男性陣はその日の疲れで精一杯で、体が思うように動かず疲労困憊していた。
そこに嫌われ者の猪熊が誠のそばにやってきた。
猪熊は誠に因縁をつけて戦いを挑んだ。
「おう、誠! いい気になってるなよ、ちょっとこっちに来い……」
誠は突然のことに驚きながら振り返り、怒りを露わにした猪熊の顔を見た。
「声が大きいですよ、みんなビックリしますよ」
「ふん」
猪熊は誠の反撃を受け流した。
しかし、近くにいた悠作は事を収めようと猪熊に声をかけた。
「あのう……」
すると猪熊は「馬鹿野郎」と言って余計な因縁をつけ、悠作は猪熊の威嚇に全身が硬直し、額から冷汗が流れた。
それはまるで蛇に睨まれたカエルのようだった。
そんな悠作を見て、誠は思った。
……悠作はこういうのには向いてないんだな……平時には強くても、戦時には弱い性格なんだ……
そこで誠は悠作に光ちゃんと綾香を連れて別室へ退避するように言った。悠作は了解し、二人を連れて別室へ退避した。
猪熊の ……まだこれなら一対二で数で押せばこの危機を乗り越えられる……、しかし猪熊は冷静な顔をしていた。
……俺の強さを思い知らせてやる……
そう思いながら猪熊は自分の不利な状況も気にせず落ち着いていた。
誠は猪熊に文句を言った。
「自分のことばかり言うなよ、それは自分勝手な話じゃないか?」
誠は必死に抵抗した。
そしてリサが誠を援護した。
「そうよ、マコたんがどれだけ苦労したと思ってるの?」
猪熊は自分勝手な理屈をこねた。
「力の強い者が天下を取るんだよ、勝てば官軍だ」
二人は猪熊の勝手な言い分に呆れた。
猪熊は誠を力でねじ伏せることができれば最良だが、そうでなくても作業所の皆に自分が権力者だと印象付ければそれで良かった。
なぜそんなことをするのか?それは彼が精神障害者だからだ。
そこで猪熊は誠に決定的な差を見せつけることにした。
猪熊は叫んだ。
「おい、野郎ども、こいつらに顔を見せてやれ……」
「おお」
奥に控えていた信義と寅蔵が無慈悲で残虐な顔をして前線に現れた。
これには誠とリサも驚いた。
……こんなに強い人たちがいたなんて……それに他にもまだいるかもしれない……猪熊はなんて強いんだ……
猪熊たちは動揺している誠とリサに向かって総攻撃を仕掛けた。
信義が吼えた。
「誠、お前は目障りだ、愚図は愚図らしく大人しくしてろ」
誠は思わず口を塞いだ。
「ぬ」
寅蔵が猪熊の優越性を称えた。
「この猪熊様はこの施設を作るとき、猪熊様の親が莫大な寄付をしたんだぞ、お前にそれができるか、足元にも及ばない」
猪熊は二人を見て満足げだった。
最後に猪熊が二人を脅した。
「お前たちは何がしたくてそんなことをするんだ、それはやがてみんなの負担になって苦しむことになるぞ」
誠は猪熊の言葉に迷いが生じた。
……俺がしてきたことはみんなの負担だったのか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます