第5話 驀進カップル

 そこで、誠は手始めに、支援員たちが行う作業の準備を代わりに行うことにした。作業の準備の手順を理解した後、仲間たちに声をかけて手伝ってもらうつもりだった。

 作業の準備をしながら、誠は考えた。「これは、仲間たちの仕事ではないかもしれない」と。1、2ヶ月ほど経った頃、一人で準備をしている誠の様子を皆は不思議そうに見ていた。

 誠は、作業を通じてしか彼らとの繋がりを作れないと感じていたから、(シマ)を手に入れる必要があった。やがて、誠は(シマ)を手に入れ、作業の内容を学習した。「よし、手順はわかった」と。そこで誠は、人の良さそうな仲間たちに声をかけ始めた。「手伝ってくれませんか?」と。すると、綾香が答えた。「はい」と。二人は楽しそうに作業の準備をした。


 準備が終わると、誠は綾香にお礼を言った。「ありがとう」と。そう言って、誠は綾香ににっこりと笑った。支援員のソルトさんは、そんな誠を苦々しく思っていた。「誠さん、あまり周りの人たちを自分の思い通りに動かさないでください」と。誠は、「いいじゃん」と答えた。支援員たちの事なかれ主義に、誠は眉をひそめた。


 ある日、光は綾香と誠について感じたことを話した。「誠の奴、ちょっと偉ぶっているよね」と。綾香はにっこり笑って、その話を濁した。誠は、作業所『ハトさん』の仲間たちにとっては、3年しか経っていない新参者であり、それ以上に何か悪いところがあるようで、彼らの心を不快にさせていた。


 さらに、リサと組んでボスキャラを目指していることが、彼らとの間に大きな軋轢を生んでいた。いつものように、空気の読めないリサは、誠を見つけると「こっちにおいで」と言って手招きした。誠がリサの傍に行くと、リサは上機嫌で話し出した。

 「おい、誠、リーダーシップの本に書いてあったぞ。褒めて、叱って、励ましてってね」と。誠は、リサの言うボスキャラになるための硬い話もいいが、リサを自分の彼女にして一緒に楽しく「恋人ごっこ」したい気持ちもあった。そこで、誠はリサに言った。「リサポン、その淡い色のズボン素敵だね」と。リサは、「そうか」と答えた。

 リサは、誠の脱線する話がリサの硬い話のバランスを取り、満更でもなく喜んでいた。誠も、ちょっと変わったリサに心奪われていた。誠は、そんなリサを見て思った。

 「リサのことが、少しずつ好きになっている?」と。そして、もっと誠の仲間たちとも、もっと深い仲間同士の付き合いをしたいと勝手に考えていた。そして、なれるのなら、誠はボスキャラになって頂点に立ってみたいと妄想を膨らませた。

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