第3話 朝の体操

 支援員の有希さんが見届けた後、「さあ、朝の体操を始めましょう」と言いました。彼女は「広がれー」というジェスチャーをしました。みんなはそれに従って、休息室に散らばりました。今日の光ちゃんは特に元気いっぱいです。誠は体操をすると体が温まり、それを楽しんでいます。

 「イッチ、ニ、イッチ、二、……」

 体操が終わると、誠と仲間たちは、支援員たちが作業の準備を終えるまで待機しました。


 待機中の誠は、施設長の坂井さんから事務所に来るように言われました。何のことだろうと思いつつ、他の人たちを残して事務所へ向かいました。事務所には、窓際に長いキッチンテーブルがあり、壁沿いにはパソコンや書類の棚があり、個人情報の 書類が無造作に並んでいました。施設長の坂井さんはすぐに誠に話を始めました。

 「他の人に指示を出して勝手に動かないでください。支援員でもないあなたがそうすると、『何だ、支援員でもないくせに…』と思われ、みんなに嫌われますよ」と言いました。

 誠は驚いて施設長の坂井さんを見上げました。自分がリーダーの真似をしていた行動が、そんな風に映っていたのかと気づきましたが、すぐには受け入れられませんでした。施設長の坂井さんはそれだけ言うと、去ってもいいという身振りをしました。 誠は事務所を出ました。

 「ちっ……」

 誠は施設長の坂井さんの言葉に怒りを感じました。そこで、休息室のソファーに座っている悠作に、この怒りをどう思うか聞いてみることにしました。

 「悠作、ちょっと来てくれる?」

 誠は支援員に言われて新聞を広げて作業の準備をしていた悠作を呼びました。

 「何々、マコたん?」

 悠作は大きな頭を揺らしながら誠のそばに来ました。そばに来ると、メガネを指で整えてじっと誠を見ました。誠は悠作に言いました。

 「あの、さっき施設長さんから、皆に指示を出すと嫌われるって言われたんだけど、どう思う?」

 悠作は「そうだね」とストレートに答えました。

 「えっ」

 誠はその返事に唖然とし、頭が真っ白になりました。「人は変われる」という誠の想いが壁となり、立ちはだかりました。誠はその壁を越えられず、「変われない」という現実に打ちのめされ、利用者たちに働きかけるリーダーシップを失いました。

 それから、誠は周りに干渉しないようにし、何事もないような毎日を送るようになりました。

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