第44話
「随分お楽しみですねぇ」
ユリは笑顔を貼り付けたままどこか恨めしさのこもった声でそう言う。
「あ、いや、これは、そのぉ」
「もしかして、お邪魔でしたか?」
「ユリちゃん違うの! ちょっとじゃれてただけで、深い意味は決して無いから!」
「ふーん」
姫の必死の弁明も虚しく、ユリは目を細めてジトッと姫を見据える。
「年頃の男女が二人でじゃれ合い……検索して、それがどういう意味を持つのか調べてみましょうか?」
「ユリ! 姫の言ってることは本当だ。これは、ただじゃれてただけなんだよ」
今はいたずらにユリのことを傷つけたくない。昨日の傷もまだ癒えていないだろうし、今後の関係にも影響が出かねない。
わかってるはずなのに、何で俺はあんなことをしてしまったんだろう。
「……ふふっ」
「?」
そのとき、さっきまで怒りに満ちているように見えたユリが突然くつくつと笑い出す。
「二人とも、冗談ですよ」
「へ?」
「起きたら声が聞こえて、ちょっと悪戯してやろうと思っただけです。別に怒ってないですから」
「ユリ……」
ユリは気丈に笑ってみせるが、その笑顔の裏に何か隠している気がしてならない。
それは姫も同じようで、緊張した面持ちでユリを見ている。
「ん? んー」
流石に声が大きすぎたか、白崎がのっそりと起き上がる。
「あ、おはようございます! 白崎さん」
「ん、おはよー。なんか話してた?」
「い、いやぁ別に。あっ、そろそろ出ようか」
「んー、もうそんな時間?」
「あ、ちょっとシャワー浴びさせて! 身体べたべた」
「姫ちゃーん、一緒に入ろー」
「何でよ! 外で待ってなさい!」
「はーい」
姫が慌ただしく浴室に入っていくと、白崎はその扉にもたれかかるように座ってしまう。
そこに座ると姫が出られないんじゃ……というツッコミはあえてしないでおいた。
「マスター」
「ん?」
ユリが小声で俺に呼びかける。
「率直に聞きますけど」
「え?」
嫌な予感が背筋を走ったが、ユリを制止する間もなくその小さな口が酸素を吸い込む。
「興奮、しました?」
「は、はぁぁああ⁉」
白崎の肩がビクッと跳ねたが、今の俺にはそんなこと気にする余裕が無かった。
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