第42話
「お酒に酔っているからって、何をしていいわけではありませんっ」
ベッドの上で大人が三人正座をして、まだ自我を持って間もないユリの説教を聞いている。
「要が悪さしてごめんなさい」
「ちょ、姫ちゃんの暴走っぷりも相当だったからね⁉」
「まあまあ二人とも、落ち着いて」
「修司さんはある意味元凶である自覚を持ってください」
「えっ? 俺?」
「「そーだそーだ」」
訳もわからず多数決の理不尽さに打ちひしがれていると、ユリのこらえるような笑い声が聞こえてくる。
「でも、なんか良いですね。これが俗に言う若さってことなんでしょうか」
当然のことながら、ユリのその発言に白崎と姫の二人は首を傾げる。
「ユリちゃんも若いじゃん。私らより」
「えっ? あっ、そうでしたね。皆さんを見ているとそういうことも忘れちゃいます」
「何それ、変なの」
「ユリちゃんって結構天然だよねぇ」
「天然? いえいえ、こう見えて実は人工物ですよ」
「あはは何それ。ね、学校はどう? 悩みとかない?」
「ちょっと要」
「今のところ検索エンジンと全人類の皆さんが教師代わりになってくれているので、学校は必要ありません」
「あはは! イイねそのメンタル! 私も学校嫌いだからわかるわー。ね、もっと話聞かせてよ」
白崎がきっかけになって始まったユリの語りだが、傍でひやひやしている俺を他所に思わぬ盛り上がりを見せた。
きっとユリの不登校少女という設定が二人の共感を呼んだのだろう。幸い、ユリのちょっと尖っているところと、少しずれた回答がその設定に説得力を持たせている。
昔は何をしていた。子供の頃の思い出。将来の夢は? 俺と出会ったきっかけは?
女子トークとでも言うのだろうか。多種多様な質問の応酬にもユリは、まるで本物の人間のように、まるで本当に経験してきたことのようにするすると回答していく。
その中には俺とユリで考えた回答もあったが、殆どはユリが考えたものだ。
時に笑って、時に悲しそうな表情を浮かべる。
ユリは俺たち人間と何が違うのだろうか。
「……ん」
そんなことを考えていたらいつの間にか寝てしまっていたみたいだ。一つの寝息と、数匹の雀の鳴き声が聞こえる。
「おはよ」
「ん?」
見ると、姫が先に起きていたみたいだ。ベッドに腰かけ、少しはだけた部屋着のまま薄目で俺に微笑む。
「ん」
姫は自分の左横のスペースをぽんぽんと叩く。
「しー、でね」
気持ちよさそうに寝ている白崎を横目に、俺は姫の隣に座った。
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