第36話
ユリの萌え萌えキュンの後、俺たちのテーブルに静寂が訪れる。
一体二人にどんな反応をされるのかと怯えていると、グラスを傾けていたらしい姫がドンとそれを置いた。
「ユリちゃん」
「姫?」
「超」
「超?」
「超、可愛い。好き」
ほっ、と胸をなでおろしたのも束の間、今度は白崎が何故か涙を流している。
「尊いなぁ。好きな人のために、そんなことまで出来るなんて」
「そ、そんな大層なことでは」
白崎の言葉を鵜呑みにしたユリが照れているが、本当にそんな大層なことではないのだ。
「黒部くんにそんな趣味があったのはちょっとショックだったけど」
「え?」
ニタニタと笑みを浮かべている白崎と目が合う。
「いや、俺は一回もこんなこと教えたつもりはっ」
「いやいや、こんな純粋なユリちゃんが一人でこんなの覚えるわけないでしょ? 修司、観念しなさいっ」
「いや、だから俺は」
「姫ちゃん警部補! 黒部被告がなかなか吐きません! どうしましょう!」
「勝手になんか始めないでくれ」
「店員さーん、生一つ! それと……カシオレも一つね」
「キャー! 甘いアルコールで落とす作戦ですか⁉ 新歓でしか見たことない! 流石警部補!」
「この場合警部であれ」
「お酒はおまけ、大事なのは、被告の心を動かすハート、だぞ?」
「キャー! ダサーい!」
「何が面白いんだか。すみません、これハイボールと変えてくれませんか? お金は払うので」
ギリギリで警部補の罠を回避した俺だったが、警部の座を狙う姫の視線は俺を逃がさない。
「前から思ってたんだけどさ」
「うん? あ、どうも、ありがとうございます」
「ユリちゃんと修司ってどういう関係?」
「んぐっ」
唐突にそんなことを聞かれ、お酒が喉に詰まる。
「あっ、修司さんが死んじゃいますっ」
「大丈夫。少し詰まっただけ」
「修司のことなんだと思ってんのよ。てか、今みたいに、なんか二人の距離感が掴めないのよねぇ」
「距離感?」
「ああ、なんかそれわかるかも」
白崎はそう言って、豆が三つ入っている枝豆を一つ摘まみ上げる。
そしてそれを俺に見せる前に一つだけ食べた。
「本当なら、もぐっ、地元が同じで黒部くんが東京に来てからも頻繁にやり取りするくらいだから、相当仲が良いはず。それこそ、この枝豆みたいに一蓮托生」
白崎はそこまで言うと、二つ残った内の一つだけを器用に押し出す。
「でも二人はなんか、そういう感じが無いというか」
「最近仲良くなったように見える、てこと?」
「そう! そういうこと。流石姫ちゃん警部!」
「やっと昇進したぜぃ」
「……」
どう言い訳したものか。適当な言葉が見つからない。確かに、どんなに仲が悪くなっても、姫と白崎みたいにそこそこ長く付き合っていればこういうやり取りが出来るものだ。
「うーんと、どう言ったら良いのか」
「私の片思いなんです」
端的で潔いユリの言葉は、姫と白崎の周りの空気をツンと冷やす。
「私はずっと、修司さんのことを見ていました」
まるで何か重大なことを告白するときのように、ユリは小さく深呼吸をしてもう一度口を開いた。
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