第30話
「旅行? 無理じゃない?」
昼休み、食堂で姫に旅行のことを相談して開口一番、呆れ顔でそんなことを言われる。
「え、でも最近バイト頑張ってたし」
「何のバイト?」
「ティッシュ配り」
「それでそんなに?」
「いつも全部配り終えてインセンティブ貰ってるから」
「この人たらしめ……」
姫はため息をついて、難しい顔でうーんと唸ってしまう。
「近場なら行けなくはない、のかな?」
「え、本当⁉」
「うん、例えば、日帰りでどこか行くとか。結構忙しいスケジュールになっちゃうけど」
姫はそう言って徐にスマホに視線を落とす。
「なんせ私たち多忙な大学生ですから……ほら、一時間以内で結構どこでも行ける。混んでるだろうけど」
「うわあ……確かに、いつも混んでるイメージしかない」
「でしょ? それよりさ、一緒に」
「えーなになに? 二人で何の話してるの?」
「げっ」
姫は露骨に嫌そうな顔をする。女の子の立場なら無理もない気がした。何故なら白崎は見る度に綺麗になっている気がするから。
白崎は暗い過去など微塵も感じさせない爽やかな笑顔を俺に向けて、姫に隣にスッと座る。
「今日も可愛い服着てるね」
「えっ?」
「ちょ、あんたいい加減にしなさいよ。思ってもないことをぺらぺらと」
「え、本当に思ってるけど?」
「えっと、いやぁ、えへへ」
服を褒められて嬉しいらしい白崎とは対照的に、姫は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「見んな」
「え?」
「今日、あんま気合入ってないから」
姫はそう言い、自分をギュッと抱き締めるように肌色のセーターを俺から隠す。丈の長いスカートもゆったりしていてとても可愛いと思うが、言うと姫を怒らせそうな気がするのでやめておこう。
「修司さん! 今日の私の服はどうですか?」
突然ユリの声が俺のスマホから響き、一瞬の静寂が訪れる。
「ユリちゃんもいたんだ」
「最初からいた?」
「なっ! 失礼ですよ! 私はずっといました! 良いタイミングを見計らってただけです」
良いタイミング、というのも微妙なところだ。何故ならユリの今日の服装が胸元の空いたセーターだということは俺しか知らないし、絶対に知られたくないからだ。
「と、とにかく、どこにしようか。旅行」
「え、旅行? 面白そう!」
「旅行というか、小旅行の方が表現ピッタリね。その日で帰ってこなきゃいけないだろうし」
「えー姫ちゃん真面目すぎぃ」
「どいつもこいつも自分たちの本分をなんだと思ってるのよ」
「じゃあ、こことかどうかな?」
俺は沢山ある候補の中から特に目を惹くものを何となく指さす。
次の瞬間、皆が俺の指と姫のスマホを見下ろし、次の瞬間には苦い顔をしたのだった。
「アメ横?」
「上野?」
特に前情報が無い俺とユリだけがウキウキしていた……。
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