第26話
「おはようございますマスター」
「ああ、おはよう」
そう言って次の瞬間、目に入ってきたその光景が現実のものとはとても考えられず、俺はパソコンを閉じて朝飯の準備をする。
「マスター! ちょっと!」
ユリの悲痛な声を受け流して、俺は冷凍のご飯をチンする。
「何で何も言ってくれないんですか!」
「楽しみだなぁ納豆ご飯」
「薄情者!」
「今日は一限無いから楽だなぁ」
「ねえマスター!」
『チーン』
俺はアチアチのそれを取り出し、適当に納豆をかけて席に戻る。
「いただきます」
「うぅ、本当に泣きますよ?」
いい加減観念し、パソコンを開く。
「どこから取ってきたんだそんなもの」
「……マスターの検索履歴から」
そう言われ、心当たりがないでもない俺は、箸に絡まったねばねばを切ることに集中する。
「それはいけないことだ」
「何がどういけないんですか?」
「その服装がユリの教育に良くない」
「教育がどうとか、今更です! 私は自由にネットを使えるんですから」
珍しく正論を言われて戸惑い、俺はねばねばを切ることに集中する。
「とにかく目に毒だ」
「どこが、どう目に毒なんですか?」
ユリの長い黒髪、そして普段の制服姿からのギャップ。
俺は、ユリのバニーガール姿にみっともなく動揺していた。
「知ってましたか? 大昔バニーガールにはちょめちょめの代わりに常連客に重要な情報を教えるという仕事があったそうですよ」
「そうなんだ」
「嘘ですけど」
カチン。
「でもマスターに重要な情報を伝えたいというのは本当なんです」
「内容次第ではシャットダウンするからね」
「ええそんな! お気に召すかわかりませんが」
バニーガール姿のユリはそう言ってパタパタと身体を指を動かし始める。お尻が、胸が、目を惹く白いぽわぽわが一瞬一瞬で思考をジャックするが、次に画面に表示されたそれを凝視してしまった。
「白崎さんからのメッセージです」
「知らなかった。昨日?」
「昨日の夜です。マスターは現代人には珍しくSNSにはあまり興味がありませんよね」
「情報量が多すぎてパンクする」
「同感です。しかし、その中には重要な情報も確かに混じっています」
ユリは白崎からのメッセージを読み上げるために大きく息を吸う。
「今日、二限目から一緒に登校したいんだけど、講義入ってる? 入ってなかったら、入ってないで言ってもらって大丈夫なんだけど」
ユリはそこまで言って、わざとらしく俺を上目遣いで見た。
「黒部くんが良かったらだけど、どうかな?」
納豆のねばねばが指に引っかかってしまい、ティッシュを一枚取った。
「白崎さんに返信しておいてくれる?」
そして、その非常にしつこいそのねばねばをティッシュを潔く拭き取った。
「良いよ、って」
次の瞬間、ユリは不貞腐れてそっぽを向いたのだった。
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