第15話
「一体何なんですかあれ!」
家に着き、パソコンを開いて早々、ユリの思い詰めたような声が部屋に響く。
「性格悪すぎます! あんな人本当にいるんですね⁉」
「まあ、そうだねぇ、いるねぇ」
「まるでドラマですよ! よくあんなこと堂々と言えますよね⁉ ほんと信じられません!」
「うん、そうだね」
一方既に疲労困憊の俺は、ユリの激昂を横目に頬杖をついてため息をつく。
「マスター、お疲れですか?」
「まあ、ね。今日はちょっと疲れた」
「無理もありません。姫さんに振り回された後であんな仕打ちですから」
「姫のことは良いんだよ。楽しかった」
「え」
「問題は、あいつだよなぁ」
電車に乗り込んだ後、チラッと見えた白崎の表情、自意識過剰かもしれないが、まだ俺のことを諦めていないように見えた。
彼女の俺に対する執念が純粋な好意から来るものなら、まだ可愛げがあるのだが。
「私だってマスターのこと楽しませられます!」
「え?」
「例えば、お散歩しながら一緒にお話ししたり、一緒に映画観たり……映画館には行けないかもですけど」
「何の話?」
「……と、とにかく! 次からこういうことがあったら、マスターは私のこと使えば良いと思います!」
「例えば?」
ユリは意を決したように一つ頷くと、ついこの前作ったユリの写真を引っ張ってきた。
「私のこと、彼女だって言えば良いんですっ」
俺が作ったユリの写真は、見れば見るほど良く出来ていると思う。普通の人なら人の写真をそんなにまじまじと見ないだろうし、同時にユリの設定も説明すれば殆どの人が信じるだろう。
「ほらっ、そうすればあの悪女も諦めますよっ」
「悪女って……うーん、まあ、それも一つだよなぁ」
「不満ですか?」
「うーん、不満というか、ねえ?」
「?」
女子高生と付き合ってるとか、今のご時世許されるのだろうか。そういうモラルの話をしてもユリはいまいち理解出来ないだろうし、今から講義を開く体力も残っていない。
「とにかく、色々理由があってダメなんだよ」
「……そうですか」
「ごめんね」
「良いんです。謝らないでください。マスターがそう思うなら、私からはこれ以上言えませんから」
見るからに機嫌の悪そうな態度と声。
しかし今の俺には、ユリに構っていられる体力が無い。
「もう、寝るね」
「はい」
「また明日。ユリもゆっくり休んでね」
「はい。おやすみなさい」
心に引っかかるものがありながらも、俺は静かにパソコンを閉じ、寝床に入った。
◇ ◇ ◇
『ジリリリリ』
「うーん?」
朝だ。どうやらあれからすぐ眠ってしまったらしい。重い、重い身体を起こし、立ち上がる。
「……あれ?」
しかし次の瞬間、床と壁が視界に飛び込んでくる。どうやら倒れてしまったらしい。
「よいしょ……あれ、起き、上がれない」
身体が重い。異様に重い。それに加えて身体が熱い。意識が朦朧として、激しいメリーゴーランドに乗っているみたいだ。
「ユリ」
何とか声を絞り出してユリを呼ぶが、反応が無い。
「誰か……誰、か」
もがき苦しむ俺のうめき声だけが、たった一人の部屋に響いた。
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