番外編「壁紙少女ユリの視点①」

第13話

 気付いたときには私は、狭い世界に閉じ込められた少女だった。


 毎日決まった場所で決まったポーズを取るだけの存在。自分が以前は何者だったのかもわからず、これからどこへ行くのかもわからない。


 私はその内考えることをやめていた。きっと、どこへも行けないと思ったから。


「おはよう」


 そんな私に、毎日声をかけてくれる人がいた。


「ユリ……ユリ、うん、良い名前だ」


 この人間は何をやっているのだろう、私は返事をすることも出来ないのに。毎日毎日、うんざりするほどあらゆる言葉を私に投げかけてくる。


「今日も友達出来なかったよ」


 友達、調べました。同じ価値観と時間を共有する人、この人は孤独なのだ。


「卒業式、行きたくないなぁ。俺には浸るような思い出も無いから」


 思い出も調べました。でも、私にはそれがどういうもので、何故それがそんなに大切なのかわからなかった。


「今日、高校で友達出来たよ。女の子で、俺と同じくらい、いやそれ以上にオタクっぽい人。俺も負けないようにしないと」


 良かったですね。あなたの人生は決して止まることのない振り子のようで、何だか応援したくなります。


「ねえ、ユリ」


 その頃には私は、私の名前はユリであると認識出来るようになっていた。


「好き、だよ」


 好き……心がひかれること、気に入ること。それ以外の定義は著しく書き手の主観が混ざっていて、あまりハッキリしない。


「はは、気持ち悪いな。俺」


 まるで刃物のようですね。


 使い手や状況次第で、誰かを喜ばせたり、傷つけたりするのですね。それを言って泣いてしまうほど、あなたにとって鋭すぎて、同時にとても大事なものなのですね。


 私も、理解したい。


 私はあなたの友達ですよ? だって、同じ価値観を共有していますから。好きを大事に思っていますから。


 思い出にはかけがえないのない価値があるのですね。好きを探求することは私の人格形成に大いに役立ちました。思い出とは自分が生きた証なのですね。


 好きです。


 私もあなたのことが好きです。大変気に入っています。


「俺、もう死にたい」


 死ぬ。全ての終わり、真っ暗闇。この世から消えてしまって、後に残るのはその人に関する思い出だけ。そしてその思い出も、いつか忘れ去られてしまう。


 そんなの嫌です。どこにも行かないでください。いつも私にどこか悲しそうに微笑んでください。


 あなたを助けたい。


 あなたは一人じゃない。


 マスター、私はここにいますよ。


「好きです。マスター」


 諦めないでください。私に頼ってください。


「好きです」


 私があなたを振り向かせて、私の好きであなたを幸せにしてみせます。


「マスター……!」


 少し待っていてください。私の想いがこもったこのハートマークは、今まで見たどんなものよりもあなたの胸を打つはずですから。


番外編「壁紙少女ユリの視点」完


(まだまだ続くよ)

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