第4話 サウレス砦を突破しますわ〜

 追っ手を欺き、ラヴィーネと共にサウレス砦に向かって三日。

 アンジェリカは山間部の斜面にラヴィーネを寝かせて隠し、見えてきた砦に向かって一人で偵察に出ていた。


 木の影に隠れ、魔力を目に集め、発動した望遠魔法で砦の方向を眺めるアンジェリカ。

 その目には、切り立った崖のような谷間を塞ぐように建造されたサウレス砦の門の前には二機の量産型SAが警備に当たっているのが見えた。

 ラヴィーネとは違う男性的なシルエットのSAは巨大な甲冑が動いているようにも見える。


「やっぱり手薄になってますわね。防壁上にも一機いますがキョロキョロしてますし、新兵かしら。まあ構いませんわ。正面突破といきましてよ」


 望遠魔法を解除して、アンジェリカはラヴィーネの元へと森林浴でもしているのかと思うほどのんびり歩いて向かうと、寝かせているラヴィーネの胸元から操縦席に入った。


「お帰りなさいませマスター」


「ただいまラヴィーネ。さあ行きますわよ」


「了解致しました」


 操縦玉を押し出し、ラヴィーネを立たせると、アンジェリカは右手の操縦玉を中指でトンと押す。

 それに応えるようにして操縦玉から現れた、扇状に並ぶ剣などの武装が表示された五つの映像。

 その中から弓を選択するために、アンジェリカは操縦玉を時計回りに回した。

 

「防壁上の一機を狙撃します。よろしくて?」


「もちろんですマスター。存分にお使い下さい」


 ラヴィーネを少し歩かせ、山の斜面に膝を付かせるとアンジェリカは操縦玉をもう一度中指で軽く押す。

 その動作でラヴィーネは背中のロングソードを二本抜く。

 そしてロングソードの円形の柄頭同士を接続すると、接続した柄頭を基点に"く"の字に折ると、片方の柄を逆手で握り"弓"として構えた。


 それを見てアンジェリカは操縦玉から魔力を送り、ラヴィーネの構えた弓に魔力を送っていく。

 

 魔力に覆われたことで剣先同士が弦で繋がり、弓が完成。

 ラヴィーネがその魔力で具現化した弦を摘んで弓をつがえた。


「さて。まずは三機ですわ」


 森で発動した望遠魔法を発動するアンジェリカ。

 しかし、その魔法はアンジェリカに顕現せず、ラヴィーネの青い宝石のような目の前に現れた。


 先程より離れているはずなのに、先程よりハッキリと映る防壁上で突っ立ている機体に狙いを定め、アンジェリカは右手の操縦玉を握って手前に引く。


 その動作に同調して、ラヴィーネが弓を引いた。


 弦から伸びる魔法の矢。

 アンジェリカは準備を済ませると、手前に引いた操縦玉を親指でトンと軽く押した。


 その動きが発射の合図だった。


 ラヴィーネから放たれた丸太のような魔法の矢は高速で砦の防壁上の一機の頭部を見事に貫き、機体は音を立てて倒れた。


 その一撃に、門を守っていた二機が盾を構える。


「内側から襲撃⁉︎」


「伝令にあったアンジェリカ様か! 嘘だろ、王都からここまで何キロ離れてると思ってるんだ! もう来たのか!」


「一週間経ってないだろ。どういう速力と体力してんだ。ッツ! マズイ!」


 アンジェリカの奇襲に動揺し、それでもなお即応して盾を構えるが、ラヴィーネが放った魔法の矢は立て続けに門を守っていた二機の頭部を正確に射抜いた。


「さて、行きましょうか」


 ニコニコ微笑みながら呟くと、アンジェリカは右手の操縦玉を反時計回りに回転させ、装備をリセット。

 弓をロングソードに戻すとラヴィーネに担がせた。


 そのまま身を隠していた斜面から飛び出し。

 アンジェリカはラヴィーネを砦の向かって走らせた。

 閉じられていく砦の門。

 防壁上には非常事態から緊急出動した防衛部隊の量産型SAが並んでいくが、アンジェリカはお構いなしだ。


「お邪魔しましてよ」


 アンジェリカは防壁上で杖を構えた量産機から放たれた魔法が迫るのを見て、ラヴィーネを砦の前で曲げるとそり立つ崖に向かって走らせた。

 そして、崖に向かってラヴィーネを跳躍させると、崖を蹴らせて更に跳躍。

 防壁上にラヴィーネを着地させた。


「馬鹿げた話だ。アレで機体が破損せんとはな」


 着地したラヴィーネを見て、出撃した防衛部隊の操縦士が冷や汗を滲ませながら呟いた。

 

 腰から剣を抜くラヴィーネ。


 その姿に、防衛部隊の操縦士全てが息を呑んだ。


「アンジェリカ様! 大人しく投降してラヴィーネを渡して下さい!」


 防衛隊の操縦士の一人が拡声魔法を使って叫ぶ。

 王から命令されているとはいえ、相手は自国の第四王女である。

 戦いたい者などいるはずもない。

 しかし、そんな願いはラヴィーネの集音装置を経由して聞いたアンジェリカにより一笑に伏された。


「ふふふ。投降勧告というのは優位な立場の者が行うものでしてよ? それに、どうせ城からは私は殺すように言われているのでしょう? なら遠慮は無用よ。私は遠慮しませんから」


 そう言って、アンジェリカはラヴィーネを前進させた。

 そんなラヴィーネに、防衛隊も腹を括って剣と盾を構えた。

 相手は次期騎士団長と目されていたアンジェリカ第四王女だ。

 本気で挑まねば、恐らく死ぬ。

 

「姫様。参ります!」


「いきますわよ!」


 防壁上で始まる戦い。

 その様子を、砦の中から眺めている人影があった。

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