第11話:新米冒険者視点
冒険者パーティ『未来の守り人』。
多くの転移者が活躍するこのご時世で、純粋な現地人である剣士ルーク、盾使いマグオート、回復士ランタナで構成された期待のルーキーである。
「ルーキー」という称号は冒険者としての活動期間だけを考慮したものであり、実力は冒険者の中でも上位に食い込んでくるほど。
彼らは
それもたったの2年でそこまで登り詰めている。
そう、彼らは揃いも揃って天才なのだ。
『未来の守り人』というパーティ名に相応しく、王都ランドウェードでは国民だけでなく、ライバルであるはずの冒険者にさえ期待されていた。
そんな彼らは今、ランドウェードの森に来ている。
総勢51人もの死者を出したオーク変異種の討伐の為だ。
かつては王都ランドウェードから遠く離れた戦地へ派遣するという話も出ていたが、平均年齢15歳である彼らに戦争を味あわせてはならない、という多数の反対意見(主におば様方による主張)から頓挫した。
多くの転移者と金級冒険者たちが戦地に赴いている中、まさかの薬草栽培化計画の失敗、魔物の変異、暴走。
『未来の守り人』が王都で待機していたことは王国にとって不幸中の幸いであった。
仮にもルーキーということで3日間に及ぶ準備、生態研究に伴う攻撃パターン予測や、様々な分野の学者と歴戦の戦士を招いての作戦会議などを経て、若者たちはついにオーク変異種と対峙していた。
いや、対峙などではない。
圧倒的な実力差を前に恐怖で足を強張らせていただけだ。
「……もう無理……ルーク」
「悔しいですが、
「くっ……」
王都ランドウェードの城門から出立した時は眩いほどに輝いていた顔ぶれも、今や真っ青になって歯を食いしばっていた。
必死に堪えなければ「たすけて」という4文字が漏れてしまいそうだったのだ。
彼らは思い上がっていた。
自分たちには才能があると、今は無理でも、いつかは『勇者』にも手が届くと信じて疑わなかった。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
絶対に越えられない壁はこんなにも身近に存在していたのだ。
森を進むにつれて恐怖は浮かび上がってきた。
それだけならまだしも、ルークが幼少の頃に偶然発現した【鑑定】スキルによる情報を得て、彼らは絶望の底に叩き落された。
攻撃力や防御力は勿論、あれだけ自信があった魔力量ですら完全に敗北していたのだ。
「とりあえず作戦通り、僕が一太刀いれて誘導する……その手応えから続行か中断か判断しよう」
「……でも……それじゃルークが」
「マグオートの言う通りです。ここは……あ、皆さん! あれを!」
暗く淀んだ雰囲気の中、ランタナが静かに声を上げた。
彼女の指差す方向には、真っ黒の服を着た男が菜園への道を歩いていた。
その見たこともない風貌から3人は「事情を知らぬ旅人」だと判断、胸を掻き毟るような焦燥感に駆られた。
「このままでは、あの方が……!」
「……どうしよう……ルーク」
「一般人を戦いに巻き込んじゃいけない……でも、この距離じゃ誘導はもう間に合わない」
3人が慌てふためいている間も、突然現れた男は長い銀髪を揺らしながら、ずんずん進んでいた。
あっという間に男が林道の中間辺りに差し掛かった頃、しびれを切らしたルークが「くそ」という捨て台詞と共に駆け出した。
「ルーク、待ってください!」
ランタナが手を掴む。
「離してくれ! 僕は目の前の人を見殺しにはできない!」
「違います……! 本当に、少し待ってください!」
「目の前の人だけでも必ず救う」という幼い頃に立てた誓いを何よりも大事にしてきたルークだったが、ランタナの表情を見て思わず足を止めた。
ランタナは涙を浮かべるほど恐怖していたのだ。
対象はオークではない、あの影のような男。
回復士であるランタナは精霊の力を借りて回復を行う。
それ故、草木や動物の声も何となく感じ取れるという特技を持っていたのだが、先程から森の様子がおかしい。
「自然があの方に怯えています。何か、何か変です」
「……変?」
ランタナのこめかみを流れる汗が地面に滴り落ちた瞬間、オークが耳をつんざくほどの咆哮を上げた。
男がオークに見つかってしまったのだ。
3人が耳を覆ってなんとか凌いだのも束の間、オークは男に向かって水魔法を放った。
「……!? いけません! バリアを!」
数秒の間で行われた発出、着弾、拡散。
瞬きをする間もなく、離れた所にいた3人にも魔力の余波が襲いかかった。
警戒を怠らなかったランタナのバリアが無ければ、魔物特有の「負の魔力」にやられて行動不能になっていただろう。
「あれが、オーク異変種の使う上位魔法……!」
「……ものすごい……魔力……」
遠くからでも自己防衛に専念することしかできないルーキーたちは、せめて謎の男の最期を見届けようとしていた。
自分たちが助けられなかった悔しさと申し訳無さを噛み締めながら。
ルークは剣の柄を握り締め、マグオートは逃亡経路を脳内に描き出し、ランタナは精霊を用いて救助要請をしようとしていた。
しかし、そんな彼らの行動はとある瞬間をもってピタッと止まる。
「「え?」」
ほぼ同時に驚きの声を上げたルーキーたち。
なんとオークの首がひとりでに落ちたのだ。
慌てて男の姿を探してみれば、当の本人は首が飛んだオークの背後で、何でもないようにナイフに付いた血を振り落としていた。
「……いつ……移動した?」
マグオートの問いにランタナが震えるまま首を横に振った。
「私たちは金級冒険者……それでも見切れなかった」
2人が愕然としている中、ルークの瞳は輝きを取り戻していた。
唯一戦闘態勢にあった彼だけは見ていたのだ。
一瞬のうちにオークの首を掠めて背後に回った黒い影のようなものを。
「『黒塗りの双華』だ」
世界で1番カッコいいあだ名を、小さく確かめるように呟いたルークは脇目もふらずに駆け出した。
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