謎を呼ぶ謎
Aクラスの生徒は閉じ込められていた際にも、外との連絡を取っていた。
そのため数人の飛び込められたAクラスの生徒は全員外の状況を知ることができていて、この体育館にいた生徒もいずれはマスターキーによって解放されることを知っていた。
しかしながら、坂本が同じく閉じ込められているなんて知る由もない彼らは少しばかりの休憩と何もすることがないので雑談をしていたが、隠れている坂本からすれば彼らの一挙手一投足は彼女の心臓の鼓動を逸らせる。もう閉じ込められてしばらく経っていて、終わるまで助けはこないのだろうかと幕の中にくるまれながら隠れている。
ずっと物音に敏感になっていた彼女の心臓を一番悪くしたのは誰でもなく背後で開かれた体育館の扉だった。開かれた瞬間、坂本は驚きすぎて思わず叫んでしまう。
そこで彼女はやってしまったと後悔したがもう遅い。くつろいでいた警察がこっちの異変に気付いて近づいてくる。
「早く、こっちに来て!」
扉の向こうで急かす声に、坂本は慌てて走っていく。
中から出てくるのを確認してすぐに物部は鍵をする。これでマスターキーで開錠されない限りここから彼らが出てくることはない。
「さっきは、ごめん」
体育館から出てすぐに、彼女は物部に謝った。自分のせいでこんなことになってしまったという点があった上に助けてもらって彼女としては上げる顔がなかった。
だけど当の本人はそんなことまったく気にしていないみたいで、むしろ責任感を感じていたみたいだった。
「謝るなって。あれは俺が悪かったんだ」
終わりが良ければすべてがいい。今こうして彼女が捕まらずに出れただけでいいと思う。特に今はルール変更するか否かのはざま。捕まると面倒なことになる気がする。
「そろそろ、投票終わってるんじゃないの?」
伊予が言うのでデバイスを見ると投票期間が終了していた。全票が入っていたわけではないけれど、おそらくそれらを含めても覆らない結果になったから閉め切ったんだと思う。
結果から言えばルール変更は受諾された。Aクラスは軒並み反対票を入れていたが所詮一クラス。それだけの人数では覆りはしない。
若干ではあるが警察有利だったルールに変更が加えられることになったため一時的にルールが中断される。警察がマスターキー以外の鍵を職員室に提出し、生徒も全員一度クラスの教室に戻される。
鍵を隠しているこの間は情報をまとめるにはいい機会だ。
教室には見張りという名目で各クラスの担任が配備されていて、僕らのことを見ている。
「前回の追加要素でも感じましたが、次からは泥棒に有利に働くものに関しては積極的に参加するべきだと思うのですが反対意見などありますか?」
前回のテンタクル。結果的にDクラスはその権利を一つしか得ていない。
作戦上しかたがなかったとはいえ、ほとんどBクラスに持っていかれてしまった。
その権利も体育委員の神殿くんに渡さざるを得ない。本当であれば機動力のある織戸や、実は運動神経の良い福武や四月一日も候補にはきっとあがっていたはずだ。
「ないですね。あとはこれからの逃げ方ですが、何人かで組んでの行動は多方面を見れるという点で良かったんですが行動している中で人数が集まっているせいで目立つという弱点も見つかりました。なので単独行動をする人を何人か出したいです。特に運動神経が良かったり警察に見つかりづらい人たちが良いですね」
全員で話し合った結果、さっき述べていた織戸、福武に四月一日。それと一度も警察に見つかっていない夜久と最も小柄という理由で下條道が選ばれた。
「こんなことで選ばれるなんて全然嬉しくないよ」
下條道さんは設楽さんに抗議していたが、事実彼女はその小柄さで人に気づかれにくい。こういう場面ではそういう個性も行かせるはずだと彼女が判断したんだ。
「そう言わないで。今度スイーツ奢ってあげるから」
「えっ?………そっか、なら仕方ないな。そういうことにしといてあげる」
「うん。ありがとうね」
なんだかほのぼのしたところも見れたところで、織戸くんが抜けるということは僕は伊予と二人で行動ってことなのかな。
「わざわざ再編成するほうがめんどくさいだろ。今の方がもう組んでしばらく経ってるし伝達とかもスムーズだろうしな」
それはまぁ織戸くんの言う通り。ほとんど関係性で組まれた以上多少は仕方がない。
鍵を再配置することができたらしく教室の鍵が開かれる。
Aクラスだけが後から出るみたいでその都度担任が鍵を閉めて再開されることになる。
今回は前回とは異なって、とにかく分散すること。
後半戦になってこの試験の条件を意識するようになってくる頃。
僕が伊予と相談して最後まで逃げ切ることにした場所がここ。選択としてはなかなかに悪くはないと思っている。
「まぁここなら少しは時間が稼げるよね」
「ただ見つかったらけっこうピンチになるけど」
「いいよ。ここなら気持ちが落ち着くからいつでも冷静に判断できる気がする」
植物園。誰かがまだ手入れをしているからなのか、植物は綺麗に育っている。
さっきはちゃんと見ることはできなかったがいくつかは花が咲いていて伊予はそれをしゃがんで愛でている。僕もその隣に座って花を眺めた。
「伊予は花の名前とかしってるの?」
「基本的なのしか分からないよ。別に勉強が多少できてもそれがイコール知識があるってわけじゃないから」
「それは知ってるよ。伊予は案外ポンコツなところがあるから」
「ポ、、えっ!」
口が滑った。いつもは気を張っていたのについ口にしてしまった。
でもまぁ嘘ではないんだよ。しっかり者ではあるけどね。
開始から数分。何もしていないまま時間が過ぎていく。こうなってくると見つかるまでなにもすることがないということになるわけで、本来のけいどろとも言える。
「やっぱりCクラスだけ異様に捕まらないよね」
「僕も気になってるんだよ。きっと何かあるんだろうけどその何かが全く思い浮かばない」
体育委員以外がこの試験で何かPPを使用するという行為自体を禁止している都合上、できるとするなら試験前に何かしているかもしくは彼らもまた誰かと手を組んでいるか。
なんてね、まさかCクラスとAクラスが手を組むなんてことありえるわけないし。
「………しりとりでも、しよっか」
何か起こるまでずっとここにいるのは実は暇なのでは、と思い始めた。
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