レスキューorアンロック
全クラスによって行われる投票。
その内容は、今まで通りゲームを継続するか否か。
この一時間で、たとえAクラスであったとしても三クラスを相手にしては鼬ごっこにしかなり得ないということが分かった。今後のゲーム性が変わる変更のため、警察であるAクラスにもその投票の権限がある。
とはいっても役割が違うため泥棒側が手を組んで投票を操作すればその一票には意味はなくなる。あくまで体裁として投票権が付与されたのだろう。
「とりあえず設楽さんに連絡した方が良いんじゃないかな」
伊予が言ってそれに織戸も同意するとんとん拍子に進んでいく話に、一夜は慌てて話に入った。
「ちょ、ちょっと待って二人とも」
それでやっと織戸はデバイスを触るのを止める。
僕は送られていたメールを二人に見せてどうしようかと相談した。
「これ、助けに行くべきかな」
あの作戦のあとのことは、僕たちもよく分かっていない。
ただ多くの生徒が警察の策略によって捕まってしまったということだけは分かっていて、一夜もその一人としてとにかく逃げていた。
なので、坂本さんのことなんて忘れかけていて今もどこにいるのかすら分からない。
織戸は少し考えたが一夜の意見はいったん置いておくことにする。
「まずはこっちの投票が先だろ。たとえ協力関係だったとしても所詮は他クラスだ。先にこっちを考えてからでも遅くはない。それに、あいつには鈴木がいたはずだが」
彼女の隣にいつもいた生徒。確かにあの時も一緒にいた気がする。でもこんな連絡をしてくるってことは彼女とははぐれているってことなんじゃ。
聞かれて返事をしたのにも関わらず思い悩んでいる一夜を見て呆れた織戸はデバイスを手で覆った。すぐに顔を上げると不機嫌そうな顔の織戸がこちらを見ている。
「意見を聞く気がないなら質問するな。俺は別に無視するって言ったんじゃないんだ。先にこっちを終わらせるって言ったんだよ。早くこっちを終わらせばいいだけの話だ」
「そうだね。僕が悪かった」
たぶん悪い悪くないの話じゃないのは分かっているけど、一人で勝手なことを言っていたことに対して謝らないと気が済まなかった。織戸が連絡をしようと再びデバイスを開いたとき、ちょうどそれが振動した。
クラスのグループチャットに書き込みがされている。設楽さんだ。
「今回の投票、みんなちゃんと読んだよね?」
今回のルールが変更されるかの投票、今まで通りなら普通に牢屋から捕まった生徒を逃がすために誰かがそこに向かわなければならないというものだが、変更された場合には牢屋に向かって生徒を助けることはできなくなる。
その代わりとして、全クラスが集めた鍵を使って指定された校舎の部屋の鍵を開錠することで牢屋から生徒を助け出したのと同じ判定がされるようになるというもの。
今、校舎の中は魔境になっている。すべての部屋がマスターキーによって閉ざされてほとんど警察独壇場になった中で数少ない生徒が今も逃げている。といってもそれは期限付きの逃亡。どこにいてもほとんど警察の目にさらされるという鬼畜仕様。
マスターキーが警察に渡ってしまったために施された救済措置だった。
「それで考えたんだけど、これは無難にルール変更する方が良いと思うんだ」
みんなそれに同意した。既存のルールだと確実に警察に捕まるまでの時間が短くなっていて、牢屋に助けに行く人の必須度が上がる。
基本的に二度の牢屋からの救出では織戸が向かったが、一度目よりも難度が上がっているのは彼自身が証言している。
「今後も助けに行けるなんて保証はできない。それに、俺自身が捕まる可能性だって十分にあるしな」
それに対して校舎に向かうのはそこまでリスキーではないし、階層が多いので常に目的地に対して見張りがいるとも限らない。あくまで助け出すために開けな変えればならない部屋の鍵は泥棒側にしか開示されないのだから。
ということで全員がルール変更の方に投票を行うことにして、チャット欄を三人は閉じた。そのまま投票画面で投票するとそこで初めてさっきの話に戻る。
「じゃ、行くか」
「そうだね」
突然助けに行くと言い始めた二人に一夜は驚いた。
「え、でもさっきの感じだったらだめなのかと」
「織戸くんはそんなこと言わないよ。それに、一夜くんも止めたって行くでしょ?」
そう言われたら、まぁその通りなんだけれども。
でも織戸君がついてきててくれるとは正直思わなかった。彼の性格からして損得勘定をちゃんと持って行動するタイプだから。
「ほら、いいから早くいくぞ。どこに助けにいけばいいんだ?」
「あ、照れてる照れてる~」
「うるさい黙れ」
僕はデバイスを確認する。そういえば、場所もなんにも書かれていなかった。自分がどこにいるのか分からないのかな。それとも……。
こういう時は、彼女を一番知る人に聞けばいい。
ということで鈴木さんの連絡先を出して電話をかける。この試験の間は他クラスの連絡先も表示されるのでありがたい。すぐに彼女は電話に出る。
「はい、もしもし」
「もしもし鈴木さん、駿河です。ちょっと聞きたいことがあるんだけど坂本さんがどこいるか分かる?」
「それをどうして?」
「えっ?」
彼女から連絡が来たからって正直に答えるべきなのか、あの聞き方からして知られたくないことなのかな。でも今は坂本さんに時間はなさそうなので正直に答えた。
「坂本さんからだよ」
「………そうですか。ならお話します。彩音は今体育館の中にいます」
「それって、作戦は失敗していたってことですか?」
「いや、それは………。そうですね。結果から言えば失敗はしていません。ただ彩音は鍵を閉めるのに似合わなくて。彼女を待っていたら警察の人も外に出すことになってしまう。それで仕方なく」
彼女の声には悔しさが滲んでいて、きっと最後まで悩んだ末にそうしたんだと伝わってくる。
お礼を言って電話を切り、二人にこのことを言うと織戸はさっきの態度とは一変思い悩んだ様相だったが、隣にいる伊予が助けに行く気満々だったので諦めて報うことにする。
時折思うけど、本当に彼女は頭がいいのかと思うような時がある。猪突猛進過ぎるなぁ。
「まず、鍵を貰わないと。誰が最後に持ってたんだっけ」
「確かBクラスの一番足の速い男子だった気が」
そう壇上で坂本さんが言っていた気がする。
「そいつに連絡するか」
織戸がするとその子は今体育館前にいるらしい。どうやら責任を感じて助けに行こうとしていたみたい。タイミングが良かった。そのこと一緒に入って助けに行こうということになって体育館に向かうと裏口に立っている生徒が一人いた。
「お前がさっき電話していた」
「ああ、物部だ」
彼が入るのを渋っていたのは、再び警察の動ける人数が増えるからだという。
しかしマスターキーの存在がある今、それで思い悩む必要はない。
「なら、開けるぞ」
彼が鍵穴に鍵を通すと、静かに捻った。
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