絶対王政
Bクラスが囮役をしてもらっているあいだに残った生徒たちは中での施錠を進めたり、ルートの再確認などを行っていた。坂本は自分の計画には抜かりがないと思っていた。
進めている間にも抜けがあったとは思わなかったし、何より順調にことが運んでいた。むしろ順調すぎるくらいに。
数人の囮は計画通りAクラスの人を連れてきながら体育館に向かう。その間に二人一組でDクラスの生徒はドア裏で待機、Bクラスの生徒はその周りで閉じ込めた瞬間にクラスを寄せ付けないようにあらかじめ隠れている。
「来た」
ほぼ三人同時に体育館に引き連れてきた。一夜はDクラスの生徒と警察を連れてくるのを待っている。誘導の坂本さんはステージで手をふりながら三人がステージに登るのを待つ。中に入った警察はそのまま追跡を止めることなく彼らを追いかけた。
「お願い!」
坂本さんの合図で扉の後ろにスタンバイしていた一夜たちが扉を閉める。
作戦通り、扉が閉まった瞬間に隠れていたBクラスの生徒が警察を挑発して体育館に近づけない。
ステージに上がった三人はそのまま裏にある出口を通るだけで警察を閉じ込められる。外には鈴木が鍵を指したまま四人が出てくるのを待つ。暗くなった舞台裏にはいくつもの道具が片付けられないまま置かれている。そのすべてを坂本は把握しているわけじゃない。
彼女の顔が見えた途端、一瞬だが気を抜いた。
足元が一瞬おぼつかなくなり、開かれていた幕に足を取られる。
そのまま坂本は幕に絡めとられて出口から見えなくなった。
「彩音!」
その間に警察を引き付けていた三人は外に出てあとは彼女を待つだけ。
だけどすでに警察の姿が出口からも見えていた。
「おい、早く閉めないと」
「でも彩音が」
「一人の犠牲とこの作戦の成功、どっちが大事だ?」
容赦ないクラスメイトの言葉。でもこの作戦は多くの人の協力で成り立っている。ここでそれを覆したらそれこそすべてを無意味にしてしまうことになる。
苦渋を飲む思いだけど、鈴木はその扉を閉めて、男子に渡す。
「ごめん、勝ってなこと言って。お願い」
「みんなお前があいつのことを好きなのは分かってるんだ。気にするな。あとは任せろ」
彼は鍵を受け取るとそのまま体育館の周りを走っていく。
ドンドンと開けられない扉を確認して中からは走っていく音がする。他の出口を探しに行ったんだ。
この間に私たちも隠れて。
そう言おうと他のクラスメイトに言おうとして振り返って気が付いた。自分の肩に手を当てられていることに。
「捕まえた」
「うそでしょ」
三人はその場でどこから現れたのか分からない警察に確保される。すぐに警察は鍵を閉めに行った生徒を追いかける。
鍵を託された男子生徒は全ての鍵を閉め終えて、鈴木にこの後どうするか坂本から聞いていると思って連絡をする。しかし彼女はそれに応えない。
どういうことだ?
彼はおかしいなと思いながら念のためにと捕まった生徒の数を確認する。
「………作戦負けなのか?」
捕まったBクラスの生徒は26。体育館に残された坂本と自分、他に二人しか残っていない。
そして後ろからする靴音。鈴木たちも捕まったか。
いったん逃げるしかない。あとはDクラスのやつが助けてくれるのを期待するしか。
一番生存力の高い俺が捕まったら終わりだというのは彼自身も自覚している。本当なら助けに行きたいとこだが、リスクを伴う行動には責任を取れない。
何より。
「俺は坂本から直々にお願いされてるんだ。絶対に捕まるわけにはいかない」
家接は、全速力で走ってきたBクラスの生徒が鍵を閉めるのを確認するととりあえず人気のなさそうな方角へと逃げた。周りに警察がいないことを確認して織戸君と連絡をしようとデバイスを開くとすでにBクラスの半数以上、Dクラスも同じくらい捕まっていた。
「いつの間にそんなに」
そういえば移動するとき、体育館の周りで近づけないように陽動になっていた人たちの姿は見えなかった。もう外は壊滅ってことなの?
Dクラスの生徒は残り10人。確か校舎の中に4人いるはずだから外にいるのは僕、織戸君抜いて4人。体育館を閉めるのを手伝ってくれた人以外は全員生き残っていないってことなのかな。
どっちにしても織戸君にはすぐに動いてもらわないと、全滅になるクラスも出てきそう。
こんなぞ状態でもCクラスだけは依然として捕まっている生徒が二桁いないことに驚きながら一夜は織戸に連絡する。
「もしもし」
「大変だな」
第一声がそれってことは、
「もう大体把握してるんだね」
「ああ、もう牢屋は溢れんばかりだ。こりゃ助けるのは簡単かもな」
多くの生徒が捕まっている現状を見るともし助け出せたら手薄な牢屋周りは撒くのにちょうど良いはず。織戸は木から降りて牢屋に向かう。
「お前はデバイスでも見てな。減ってなかったら俺が終わったってことだから助けに来いよ」
電話が切れる。さすがにそれは無理だと思うけど、仮にそんなことがあったら善処するかな。
と、僕はテニス部の倉庫で静かに隠れていた。
タイミングというものは本当に大事で、それを偶然のように彼は引き起こす。
織戸は牢屋の周りにさっきと同じように見張りがいることを確認して、タイミングを見計らう。今回は見張りが前回よりも多い。慎重に一番近づけるところまで行くと、ポケットを探る。これを投げて意識が逸れたところに走る。前回と同じ手法だが行けるはず。
「いけ」
織戸は思い切り牢屋の真上に向かっておもちゃ屋で買った爆竹を投げる。途端に爆音が鳴って警察も泥棒も目を瞑る。その中走っていくと、足音で気づかれたようで何人かの警察がこちらに集まってくる。
他の場所が手薄になる代わりに織戸を絶対に逃がさない構えだ。
これはいくらなんでも無理か。テンタクルがあったとしても中に入れるか微妙。だがその権利すら織戸は持ち合わせていない。
一度やり直そうと牢屋から背を向けようとした時だった。
聞き覚えのある声がスピーカーで流れる。
「さて、Cクラス放送の時間がやってきました。残念なことにAクラスの委員長は逃げられてしまいました。もしやですがマスターキーを盗まれてしまったんですかねぇ?それとも……。おっとこれ以上はいけない。突然ですが僕がどこにいるのか気になる方も多いと思います。ですので、警察の皆さんのために一瞬ヒントを教えてあげましょう」
織戸が逃げ回る中聞こえてくるのはどこかを走っている音。それは階段か何なのか分からない。
だが気づけばそれは目に見える。
「残念、僕はここだよ」
織戸が作った隙にうまく入り込んだ彼は、中にいる人たちを助けるために牢屋の中に入っていた。
「まだゲーム終了なんてさせない。本番はここからなんだからさ」
湯田川は、少年のようなそのあどけない笑顔を振り撒いた。
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