その手札を伏せられない
織戸が外で警察の裏をかきながら鍵を捜索していると神殿たちのグループと遭遇した。やっぱり奥でじっとしているのは耐えられなくなって鍵を探しに行くと設楽さんを説得したらしぶしぶだが受け入れてくれたようだ。
「でも三人で探してんのに、なかなか鍵が見つかんないんだよな。そうだ織戸は見つけたのか?」
デバイスでわざわざ設楽がチャットの項目を設定してくれたのに見ていないらしい。だがそこまで目くじらを立てて言うほどのことでもないので自分の持っている一本を見せた。
「とはいっても一本だ。たぶん建物の中の方が集めやすいが、挟み撃ちに遭いやすいからリスクと考えれば外で探した方がいいだろ。そう思って俺も外に出てきたんだ」
「なるほどね」
ここはテニスコートの裏手。比較的隠れる場所も多く何より大きな樹の下なので外でもあまり暑くない。風が吹いているのが幸いしているからか。
神殿の奥、二人のうちの一人である藍沢が気になっていたであろうことを織戸に尋ねた。
「織戸君と組んでいた人、確か繰原さんと駿河君は?」
「………捕まったやつらを助けに単独行動してた。一人の方がそういうのは柔軟に対応できると思ってな。二人には鍵を探してもらうのを頼んで別れたんだ」
「なるほど。どうりで二人の鍵の数が多かったわけだ」
藍沢は画面を見ながら納得した様子で俺にも画面を見せた。神殿はやっぱりそれを知らなかったようで「おい、そういうのは俺にも教えろよ」と文句を言っている。さすが脳筋。体育委員じゃなかったらたぶん一番に捕まったやつらを助けに行ってたんだろうな。
「誰か、体育館の鍵を持っているやつとかいればいいんだけどな」
あれだけ広い場所なら誘導の仕方によっては複数人捕らえられる。テンタクルの権利を一挙獲得することすらできるからできれば自分たちのクラスでそれをやりたいわけだが、デバイスで全員が獲得した鍵の内容を確認しているとそのチャット欄に一つ書き込みがされる。
「テンタクルの権利を一つ獲得しました。ですが同時に繰原さんが捕まってしまって。すみません僕のミスで」
それを見て織戸はすぐに彼個人にチャットを送った。
「今どこだ」
「旧部室棟の、10階だよ」
随分と上だな。一度屋上まで行ったのか?
「それでさっきのチャットはホントか?」
「うん。僕が油断してたせいで伊予が捕まっちゃって。とりあえず鍵だけでも死守しようと思って渡り廊下を渡って今は何人か生徒のいる階でやりすごしてる。なんか警察を閉じ込めようとしてるみたいだからここで少しは時間が稼げるかも」
神殿たちはさっきのチャットを見て助けに行く気満々になっていた。
「分かった。余裕ができたら降りてきてほしい。さすがにもう中は安全じゃないから外に出てきてくれ。でももし捕まるなら早めに捕まっておいてくれ。伊予を助け出す算段が立つだろうからな」
「うん。そうするよ」
それでいったんデバイスを閉じて三人で行ってしまおうとする神殿たちを止めた。
分かってはいたが設楽に連絡の一つもしないで行くつもりだったらしい。
「お前、やっぱり一番奥で総大将してればよかったんじゃないか?」
「そんなこと言うなよ。だいたい、そういう縮こまった役割は好きじゃないんだ」
「せめて報連相はしっかりしてくれ……」
一緒にいる二人も苦笑いしているあたり、始まってからこいつはずっとそんな感じなんだな。
どこにいるか分からない設楽を電話で呼ぶとすぐに出てくれる。
「もしもし織戸君、どうしたの?」
「さっきのチャット見たと思うんだが、俺はいろいろあって今は神殿たちのグループといるんだ。それで神殿が捕まった伊予を助けに行きたいと言い出してな。そこんとこ一応設楽に確認しておかないとと思ってな」
「—―、ちょっと神殿君に代わってくれる?」
そう言われて俺は神殿に設楽からだ、と言ってデバイスを渡す。受け取った神殿はなんのけなしに電話に出ると、いきなり怒鳴られるとは思わなかったようで電話越しの声に飛び上がっていた。
「おい、落ち着けって。分かったから!」
「あghmsg。・えj!」
内容は聞こえてこないがとりあえず怒っていることは分かる。まぁあらかじめ神殿を守るために配置した作戦なのに前線に出てたら世話無いからな。
なぜか不満げではあるが納得した様子で俺にデバイスをよこした神殿。耳を当てると怒り疲れたみたいだな。なんか元気がなくなっている。
「それで、いいのか?」
「……いいけどまだだめ。せめてもう何組かで絶対に彼女を助けられるときになったら行ってもいいけど。いつ次の追加事項が来るか分からないから、神殿君には捕まっていて欲しくないの」
そうだな。次の追加要素が泥棒側に有利になるとは限らないわけだし。総合的に考えれば神殿は助けに行かないべきだ。
「なるほどな。分かった。話は変わるが、体育館の鍵があったら連絡してくれ。何人かで警察をおびき寄せて複数人閉じ込めたい。ルール的にもテンタクルの権利は複数貰えるはずだからな」
「うん。分かった。そっちも神殿君のことよろしく頼むね」
「ああ」
電話を切るとこっぴどく怒られたせいか頭が冷えて冷静になったのか、すぐに助けに行こうと言っていたさっきの威勢がなくなっている。
「行かないのか?」
織戸が尋ねると背を向けて言った。
「設楽に言われて先走り過ぎてたなって思ったよ。この特科試験はチーム戦なんだ、それぞれがやるべきことをやんなくちゃいけない。で、繰原を助けに行くのは俺じゃなかったってことだ」
「そうか」
馬鹿では、ないんだな。
少しだけ神殿のことを見直した。これは別に俺が賢いとかの話じゃない。人の意見を聞ける奴は聞かないやつの千倍いいって話だ。
「だからお前に頼むよ」
「俺か?」
自分に指を向けた織戸にそうだ、と言う。
「一回捕まったやつらを助けたんだろ?なら、もう一回頼むよ。それで繰原連れて戻ってきてくれ」
「分かった」
神殿は再びマップの一番奥側に戻っていく。背中を向けた三人が見えなくなる前にもう一度呼んだ。警察に気づかれる前に振り向い神殿に鍵を投げる。
「それ、設楽に渡しといてくれ」
「なくさねえよ、じゃあまた後で」
今度こそ彼らは歩いていく。
そしてあれだけ大声で話をしていれば、もちろん警察は近づいてくる。
なんだ、友情を深め合った会話に水を差すつもりだったのか?趣味が悪いなAクラスも。
織戸は全速力で走って倉庫の部活の倉庫が並ぶ通りに入る。何列にもあるそれは警察をまくにはちょうどいい障害物。無事に撒くことができた織戸は、大木の上に登ってその時を待つ。
「さて、伊予はいつになったらくるんだか」
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