まだ終わらせない
一階に侵入した警察数名は、別れて中を捜索し始める。
デバイスを見ればさっきと人数はあまり変わっていない。いくら全員で捕まえに行ったとしてもあれだけ大きな場所だったらさすがのAクラスといえど逃がしてしまうのは仕方がないところがある。階段を降りている最中でも外では走っている生徒の姿が多く見えた。
「確か牢屋は、外に出たところだったな」
牢屋として機能していないのが癪だが、それも人数差から考えてのことだろう。校舎を出てすぐの場所に貼られた円形のテープに捕まった泥棒たちはクラスに関係なく放り込まれる。
さてそろそろ一階だな。デバイスをしまって踊り場から階段を降り始めた瞬間、生徒と出くわした。しかもそれはよりにもよってAクラスだった。
「嘘だろっ」
織戸は急回転して階段を駆けあがっていく。それを追うようにAクラスの生徒も走る。もう中に入ってきてたのか。どこかで完全に外を潰さない限り入ってこないと思っていた節があったために気を抜いていた。
とにかく上に上にと走っているが差はあまり広がらない。
やっと一階分差ができたところでデバイスを出しながらとにかく廊下を走り抜ける。何人かの生徒とすれ違ったが、そいつらに言う暇もなくとにかく走って反対側の階段まで着いた。どうやら連絡はまだ届いていないらしく挟み撃ちにはならなかった。すぐに一夜に電話をすると何があったのかといった様子で出た。
「どうしたの。何か言い忘れたことでもあった?」
「そのことで電話をしたんじゃない。中に警察が入ってきてる。鍵を探すなら急いだほうがよさそうだ」
「………!分かった。少し急ぐね」
彼からの連絡が途切れて織戸は渡り廊下を通って隣の旧部室棟に行く。
部室棟というだけあって、本校舎よりも一つ一つの部屋が大きい。
その部屋の一つに何かがあるのを見つけて中に入る。そこは茶道部の部室だったらしく、まだ新しい畳の匂いが鼻腔をくすぐった。
「やっぱり鍵か」
それはどこかの部屋の鍵だった。確認すると、放送部と書かれている。どこだ。
確認するとこの校舎の七階に放送室がありそこがそのまま部室になっているらしい。あと二階も上に行かないといけない。しかもそこまで警察が来るとは到底考えられなかった。
「もしかしてはずれか?」
とりあえず持っておくか。部屋を出て左右を見てみると、渡り廊下の先で生徒たちの声が聞こえてきた。ここまで上がってきたか。あとは捕まったやつらを助けにいくかどうかだな。
今はゲームが始まってから10数分。まだまだ前半戦なのには変わりない。
ここで助けに行ってもいいが、挟み撃ちになる可能性も否めないんだよな。
「………行くか」
そこを天秤にかけても、人数を使って鍵を見つけることのほうが良いという風に織戸は踏んだ。階段を上がってくる音が無いことを確認しながら恐る恐る一階に向かう。
牢屋の前では数人の警察が辺りを警戒していて、中で捕まっている人たちは他のクラスの人たちと顔をまともに合わせたのが初めてだからかなにやらクラスを越えては談笑を交わしていた。
「見た感じ、そこまで見張りは多くないな」
ルールからして見張りに全振りされると詰むのでそこらへんは考えて人数は決められているんだろう。確か牢屋の内側に警察が入る方法はないはず。かといって外から助けに入った泥棒もずっと中にいれるわけじゃない。5秒。それがタイムリミット。その計測はドローンによって行われるようで、上空にはずっと滞空しているドローンがスタンバイしている。
「何かタイミングがあればいいんだけどな」
そう、例えば全員が意識を逸らしてしまうような出来事があれば。
マイクを叩く音が校舎の外からも中からも聞こえてきた。誰かが放送室の放送ボタンを押したらしい。
「あ、あー。みなさーん聞こえてますか。僕はCクラス委員長の湯田川智哉です。なんと僕らCクラスは全勢力で臨んだ結果、Aクラスの委員長を閉じ込めることに成功しました。ということで臆することはないですよ。Aクラスは大したことないです。鍵を集めるといいことたくさん!Cクラスのお知らせでした~」
それが本当か嘘なのか、そんなことは重要じゃない。クラス委員長はどのクラスとて司令塔と言ってもいい。安全圏でみんなに支持を出せるのが最も良いことは分かっている。そのAクラスのいいんちょうが 捕まったかもしれないということだけでもAクラスの人たちには動揺が走る。彼らはデバイスで事の有無を確認しようとするのを織戸は見逃さない。
校舎から走って出ると、彼らがデバイスから顔を上げる前に牢屋に接近する。当然、中の人が騒がしくなったことで顔を上げて織戸に気づくが一歩遅く織戸を円に入れた。
「ほら、助けに来たぞ」
とにかく全員に触れるように両手を広げて中にいる人たちが触れていく。
その勢いのまま円から出ると、つかまっていた人たちも逃げ出す。
そうなればこっちのものだ。たとえAクラスの人たちに作戦があったとしても彼らも人間だ。頭の中の作戦と現実は全く異なる。こんなにたくさんの人たちが逃げ出せば見張りをしていた人たちは少しでも逃げられないようにと逃げる人たちを追いかける。
そうすれば、織戸は再び牢屋の中に入ることができ、さっき触れなかった人たちに触れて外に出た。校舎に戻るころには牢屋の中はほとんど空っぽになっていて、残されたのは数人の再び捕まってしまった人たちと、追いかけるのに疲れた警察の姿だった。
「成功だな」
自分の活躍に浸っていると、デバイスが振動した。
誰かと思ったら設楽さんだった。
「みんな、鍵集めはどう?持ってる人がいたらここに書いてくれる?余裕があれば警察を閉じ込めれるといいんだけど。とりあえず私たちは茶道部と囲碁将棋部の部室の鍵があるよ」
さらに通知がくる。そこには現在までに警察を鍵を使って閉じ込めることができた人数が示されていて、Cクラスが一人閉じ込めたことが書かれていた。ていうことはさっき言っていたことは本当なのか?
「とりあえず放送室の鍵とだけ書いておくか」
クラスのチャット欄に書いてデバイスをしまう。
すでに何人かは校舎に侵入しているのは分かっているが、さっきの放送でCクラスの生徒が放送室にいたことが分かっている。とするとこのまま生徒を捕まえながら上を目指すはずだ。
「祈るしかないか」
織戸はこれ以上中にいても仕方がないと思い、外の鍵を探すために遠回りをしてテニスコートの方に向かった。
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