独壇場に拐かされて
試験開始の日まで、表だって動きを見せたクラスは無かった。
強いて言うのであればDクラスが毎日のようにクラスに残っていたのを不思議に思った生徒が他のクラスに数人いたという程度で、彼らも彼らのクラスのために行動していた。
筆記試験当日はDクラスの生徒は全員が自信をもって問題に取り組んだ。織戸の答案と伊予の的確な教えは功を奏して生徒のほとんどは間違えすらあるとは思わないというレベルまで仕上がっていた。
「これで一学期の定期試験は終了だ。お前達よく頑張ったな」
三葉先生の一言をもらって全員はこの日はそのまま家に帰ることにした。明日から始まる特科試験のことよりも今テストをすらすらと解くことができたという高揚感に浸っていたかった。
翌日に張り出されたテスト。その結果は僕たちの想定と異なっていたかと言われれば厳密のはそうではなかった。だがしかしそれが予想とは異なっているのもまた事実。
「これはどういう」
テストの上位30名のうち、さらに上位の10名。伊予を除いた他の9人がAクラスだった。
貼りだされたテストの前には人だかりができていて、驚きの声が止むことはない。遅れてやってきた伊予が二人を見つけると、こちらに来てほしいのか手を振っていたのでその場から離れて彼女のところに向かう。
「おはよう」
「ああ。どうしたんだお前も順位を見ないのか?」
「でも安心して、伊予は一位だったから」
それを聞いても彼女はあんまり安心したという様子はない。それを見抜けない二人ではないのでその理由を尋ねた。
「どうしたの、浮かない顔して」
「昨日の試験で違和感を感じなかった?」
「僕は感じなかったけど」
「俺もだ」
「私は、感じたの。それもどの教科にも。それで読み返して気づいたんだ。あれは織戸くんの手に入れた答案とは答えが違う。Aクラスかな、問題を差し替えた人がいる」
不安そうにしている彼女だったが、別段そこまで落ち込むことではない。たとえ細工がされていたとしても今回の試験では上位30位の生徒のうち20人はCクラスだ。作戦勝ちと言っていいだろう。
「だから、切り替えよう」
むしろ基本スペック上の相手にそこまでさせたと思えば万々歳だ。
教室に向かうと、喜びの声が上がっていた。やはり大半の人は祝杯ムードで喜びをあげている。
これでCクラスとのPPの差はさらに開く。喜びもつかの間に始業の予鈴が鳴る。
全員が席に着いて三葉先生が教室に入ってくる。
「お前達、この調子で気を抜かないように」
一夜が気にしている坂本からの連絡は未だにない。試験内容が明確になってからくるのか、途中で来るのか。今回は一夜にとってもクラスにとってもこれは明確な枷だ。前回以上に自由に動きづらい分のメリットを彼女が示してくれるのかが協力して解決に挑むときの鍵だろうね。
始業のチャイムが鳴る。
「これより、特科試験:けいどろを開始します」
まずはいつものようにルール概要が配布される。全員のデバイスに送信されたそれを読みながら放送によってルール把握のために20分の猶予が与えられた。
「まぁ、ルールはだいたいふつうのけいどろと一緒だね」
「あとはPPの使い方と、警察、泥棒の決め方かな?」
けいどろを行うフィールドの範囲はこの校舎と、それに隣接した旧部活棟。あとは脱喝で使用していたテニスコートなどの場所や校庭を含めたいわゆる学校の施設の範囲であればどこに逃げてもいいみたい。
勝利条件は、終了時に泥棒となったクラスの三分の二が捕まっていない状況にあること。または一つのクラスの生徒が全員捕まってしまうこと。
また、PPを使うことができるのは体育委員にもとなっている。
「やっぱり今回もゲームに影響させることができる人を制限してきたな」
たぶん、他の人でもPPを使うことはできるけどあんまり期待はできないということだと思う。体育委員はたしか神殿くん。
「俺か。でも具体的な方法は追って説明する、ってつまりそれまでは捕まっちゃいけないってことだよな」
彼はそう言ってなんだか難しそうな顔をする。
捕まえる側かそうでないかでも彼の動き方が変わってきそうだし、どうなんだろう。
まだどのクラスも教室から出る気配はない。だが、ルールにはすでにどこが警察をするのかが書かれていた。
「警察は、Aクラスか」
「今一番PPが多いクラス、となるとそうだろうね」
あれからとんでもない使い方をしない限り、今回の定期試験のPP加算を加味すればAクラスがその役をするのが妥当。
「では、泥棒のみなさんには開始までの間にちりじりになっていただきたいので5分間の時間を与えます。それまでにそれぞれ散ってください」
放送を行う学年主任の湯本が言う。
「とりあえずこの教室からは出ましょう。けいどろは捕まっても大丈夫だから、とにかく捕まったら神殿くんを助けることを優先に。3~4人で組んで行動することにしましょう」
設楽さんの言葉でクラスの人たちは3人組が6つ、4人組が3つできて別れた。一夜たちはそのまま組むことになって今は旧部室棟に向かっている。
「多人数対少人数って、試験として成り立ってるのか?」
「するんじゃないかな」
触れば終わりの泥棒に対して、警察は決められた範囲の人間を触れば終わりの人たちが助けに来ていると思えばそこまで難易度としては高いとは思えない。それに3クラス対1クラスなら三人を一人で相手するとも理解できる。
「あとはPPの使いよう。ってことだね」
「うん。制限時間は一時間だからかなり長期戦だね」
さっきのルール曰く、クラス通しでの連絡を取り合うことは禁止されていない。捕まった際にはその昨日は失われるのはまあ当然として、他のクラスとの連絡についての記載はなかった。
「なら、この間の奴から連絡が来るかもしれないんだな」
「そうだね」
今回の試験で手を組むことのメリットが今のところ思い浮かばないから可能性が高いとは思えないけど、一応その可能性もあることは頭に入れておいたほうがいい。
「それでは今から警察のみなさんが教室から出ます。よってこれよりけいどろ、開始です」
Dクラスとしての作戦は一応決めていた。マップの構造上、校舎からが隅に配置されてその隣に旧部室棟。その校舎の前に校庭やらテニスコートやらが広がっていて長方形のような形になっている。
だから、その一番奥の方に体育委員の神殿くんと彼と組んでいる子を配置する。その周りにそれとなくみんなが集まっているという形にするというもの。
ただし彼自身がクラスの中でもかなり運動神経の良い方なので、警察の位置を調べる役に回した方が良いという意見が出たがそれは他の運動神経が良い人に任せることになった。捕まったら一体何人が配備されている牢屋から救出しなくちゃいけないのかはルールから読み取れなかったので仕方がない。
「そんなこと言ってる間にひとり来たな」
「三人同時……」
やっぱり相手も人数組んで連携してくるよね。
三人が校舎からテニスコート側に向かったことを連絡していると伊予がさらに「また来た、というかこれ……全員来てる?」
「おい、これまずいぞ。Aクラス全員だ」
織戸がわざわざ数えたら30ぴったりだったらしい。
それを連絡すると、誰かがまずおとりになってAクラスの壁を崩した方がいいということになる。
そして一番近い生徒がその役を担う、つまりは三人がその犠牲として選ばれた。
「それなら校舎に入って時間を稼いだ方が良いよね?」
伊予の言う通り、この校舎はとにかく階層も部屋数も多すぎる。十分に彼らをまけるはず。
「じゃあ、いくぞ」
三人は隠れていた草の茂みから顔をだすと、ちょうどAクラスの人と目が合う。
彼らが走り出すのと同時に、三人は校舎に向かって全力疾走した。
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