第35話  作戦準備

 ダンジョン42日目 俺のダンジョンの執務室にて


「じゃあ、今までの成果を見せてもらうかな」


「は、はい」


 今日はエリーナさんに1週間にわたる特訓の成果を披露してもらう日になっていた。

 執務室の中には俺と彼女しかいない。

 二人きりになるとエリーナさんは擬態をといてしまうため、ちょっとイケナイ気分になってしまうのは内緒だ。

 だって、おっぱいの大きい清純そうな美人さんなんですよ!


 ただ、執務室のベッドに横たわった俺には一抹の不安がった。

 果たしてクリュティエ蔵書の中に、普通のエッチ本はあったのだろうか?

 

「では、リラックスしてくださいね」


 自信満々なエリーナさんの声が、ますます俺の不安を高めてしまう。

 うとうととした瞬間、中世ヨーロッパの街並みの中に俺は立っていた。

 もう夕暮れなのか。

 オレンジ色ではなく、うす黄色が混じった夕暮れは異国情緒たっぷりだな。


 そうして、俺が石橋の上から教会や木組みの家なんかを眺めていると、少し向こうに黒い髪の少女が立っていた。

 オクトーバーフェス(ビール祭り)の時に着る伝統衣装(前開きの胴衣にエプロン)を着ているのだが、スカート丈が短い……。

 頭の中で既に『要注意!』のランプが点灯しているぜ。


 警戒しながら近づいていくと、その少女が手にかごを持っていることに気付く。

 中には、ピンクやオレンジのガーベラが4本ほど入れられ、隅にはマッチ箱が10個ほど入れられているのにも気付く。


「お兄さん、買ってもらえませんか?」


「いいよ。マッチかい? それともガーベラかな」


 すると少女は俺の目を見ながら、意を決したように一歩前に出る。


「私です!」


「おおい(怒)!」


 夢の世界でも怒れるようになったのって、ある意味凄いよな。

 ベッドから跳び下りた俺は、エリーナさんを問い詰めようと近づいていく……が、嬉しそうな様子を見て努めて冷静さを保つ。


「エ、エリーナさん。こんな犯罪者めいた演出はいらないんだよ。普通にカップルがね、初めてエッチするような展開がいいんだ」


 エリーナさんは残念そうにこちらを見つめる。

 

「では、どういった夢がいいんですか?」


「ええとね。20歳くらいの女の人がね、心ならずも中年男性に初めてを奪われちゃうってシチュエーションが……」


「マスター! 詳しく!!」


 前のめりになるエリーナさんにため息をつかざるを得ない。

 でも、そろそろできないとまずいんだ。


 俺は詳しいシチュエーションをエリーナさんに告げる。


「つまり、中年男性に、む、無理矢理やられる夢を見せればいいんですね。たぎってきました~」


 まるで別人みたいに生き生きしちゃってるよ……。

 手に持った紙に、何かを書き付けている。


「無理矢理やられるって、つまり後ろ手を縛られて……」


「勝手なオプションをつけるんじゃない!!」


 このままでは暴走してしまいそうなエリーナさんに、余計なことをしないように釘を刺す。


「詳細なシナリオを書いておくから、その通りにやってくれ」


「分かりました」


 エリーナさんを執務室から追い出すと、椅子に座って紙の上にエッチの詳細を書いていく。

 なにやってんだ……俺。


 §


「おい、ダイスケ! いつになったら、初物とやらせてくれるんだよ!」


 ダンジョンに戻ってから1週間ほどすると、ケンさんが俺のダンジョンに足繁く通うようになっていた。

 勝手に執務室に入ってきては、ミスティにちょっかいを出している。

 ミスティの目は氷点下以下なのだが、命令によって軽くあしらっている。


「やっぱりミスティちゃんがいいかな。匂わないどころか、いい匂いだぞ、ダイスケ」


 すぐ近くまでミスティに接近したケンは、しっかりとそのことを確認していた。

 こいつも業が深い男なんだな。

 しかも、俺の首に手を回して、こそっとさぐりを入れてくる。


「なあ、ダイスケ。やっぱりお前、元の世界に帰りたいんじゃないのか? こんなに可愛い子がいても見向きもしないんだからな」


「兄貴! そんなことないですよ。ただ、俺は巨乳が好きなんですよ」


 いつまでも引き延ばしは、できないな。

 あと……1つだけ分かったことがある。

 この世界の住人はダンジョンマスターがもとの世界に帰るのを恐れている。

 なぜかな?


「ダイスケ。俺は明日、ギレン様と一緒にこのダンジョンに来るぞ! それまでに何とかしろよ」


 ケンを見送りながら、俺は明日の方策を考え始める。

 ミスティにそんなことをさせるわけにもいかないし、方策はひとつしかない。

 少し不安だが、エリーナさんに託すしかないな。


 その夜、エリーナさんに夢を見せてもらい50カ所ほど演出の訂正をする。

 緊縛されるだの、足蹴にされるだの、勝手にシナリオを修正してやがった。

 最後に絶対にという言葉で釘を刺しておいた。


「エリーナさん。ケンが起きる前にベッドの上で全裸になっていてほしいんだ。そして……その、ベッドに血をつけて泣いた状態でいてくれ」


「どうして泣くんですか?」


「それは、本当は好きな人に抱かれたかったのに、無理矢理やられてしまって悲しいという気持ちを見せるためだ」


 エリーナさんは首を捻ったまま、ベッドの上に腰掛ける。


「無理矢理だなんて、絶好のシチュエーションじゃないですか。むしろ……」


 ぴしゃりと俺は発言をはね除ける。


「エリーナさん、分かったね!!」


「は、はい」


 さすがに俺の気迫を感じたのか、エリーナさんは何度も頷くのだった。

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