第34話 ダメよ、ダメダメ!
ダンジョン34日目 俺のダンジョンの入口にて
次の朝、ダンジョン入口で血の涙を流したまま俺は眠っていた。
護衛役の灰色狼は気が休まらずに大変だったらしい。
モフモフも気持ちよかったし、ありがとうよ。
左手をペロペロなめてくる灰色狼を引き連れて、俺は執務室へと歩いていく。
その道すがら、俺は自分の計画をひたすら考え続けていた。
サキュバスが仲間になっても、このままじゃ俺の計画は前に進まない。
やはりエリーナさんに経験をつんでもらわないといけない。
でも、実際のエッチは無理だ……となると、本で知識を得るしかない。
執務室の扉を開けると、そこにはクリュティエ、ミスティ、ノーラ婆さんが来客用の椅子にちゃっかりと座っていた。
「クリュティエ。お前、いやらしい本、持ってるだろ?」
この前、町で買ってきた本はまともな本ではないはずだ。
クリュティエはなぜばれたのかと、びっくりしたままの顔で固まっていた。
「え? 私、別に……」
確か、こいつ町の本屋でたくさん買ってたな。
1つくらい普通のエッチ本があるだろう。
「お前、その本をエリーナさんに読ませてやれ」
「え?」
ぽかんとした表情のクリュティエだったが、仲間が増えるのが嬉しかったらしい。
その日から、自分の部屋にエリーナさんを招き入れて、コレクションを自由に読ませることになったらしい。
でも、どんな本なんだろうな。
それからというもの、エリーナさんがぶつぶつ言いながら本を読んでいる姿を洞窟内で見かけるようになった。
でも、何だか怪しい絵面だよな。
今日も今日とて、我がダンジョンは冒険者たちから所持品を奪……寄付してもらっているし、クリュティエのコンサートも満員御礼だ。
1日の収支が銀貨50枚(約50万円)のプラスになっている。
ゆとりのあるダンジョン生活は継続中だ。
エリーナさんは特にやることもないため、ひたすら読書&音読をしている。
「そのとき、その男の手が女の……」
しかし、年を取ってからエッチな本を読まされるとは思っていなかっただろうな。
何か、申し訳ない気がしてくるんだよなあ。
この状況はよくないと思った俺は、エリーナさんを執事室に呼び、これからの身の振り方について提案する。
「エリーナさん。毎日こんなエッチな本を読まされて、つまらないだろう。嫌なら止めていいし、このダンジョンを出て行くのも自由だよ」
田舎のお婆ちゃんにそんなことをさせてたら、罪悪感で一杯になるよ。
俺は反省と慈愛を込めて提案した……と思ったのだが、目の前のテーブルに突っ伏して、エリーナさんは泣き出してしまった。
そんなに嫌だったのか……。
「マ、マスター。私を捨てないでください」
「いや、別にそんなこと考えてないけど」
意外な成り行きに、俺は頬杖をつきながらテーブルに両肘をつける。
エリーナさんに落ち着くように促した俺は、素直に自分の考えていることを投げかけてみた。
「エリーナさん、今の生活、辛くないの?」
思い切り頭を振り、強い語気でそれを否定する。
「今の生活、凄く充実してます! 楽しいです!」
ええ?
この生活のどこに楽しさがあるんだろう……。
「マスター、私、サキュバスとして落ちこぼれだったって前、話しましたよね。実際にエッチをしたこともないし、淫夢を見せたこともないんです。分からないから」
ふむふむと聞きつつ、俺はこれまでの生活について詳しく突っ込んでみる。
「じゃあ、食べ物はどうしてたんですか?」
「あの、パンとか野菜とか……」
サキュバスって精気を吸うのが食事じゃないの?
「いえ、違います。精気を吸うのは体力を回復させる時だけです。私は家に籠もることが多かったから、使う機会がなかったんです」
それは意外だな。
「落ちこぼれの私に話しかけてくれる人はいなかったから、私、ずっとひとりぼっちでした。でも、ここに召喚されてからは会話ができるようになりました。それに」
いい話やな。
戦力的にはアレだけど、俺の計画には付き合ってもらわないとな。
ん? エリーナさんの様子が?
「怒られたり、泣かされたり、そんなふうに私を扱ってくれた人も初めてなんです。何だか、私、嬉しいっていうか、気持ちいいっていうか……」
きな臭い話になってきたぜ。
もしかして……こいつも?
「マスター。どうか私を、ののしったり、叱ったり、もの扱いしてください!」
全身から体中の力が抜けていく。
こいつもダメ人間だったのか。
異世界……ダメ人間率高くね?
「マスターになら私の秘密を明かしてもいいと思うんです。マスター、ここに寝てください」
導かれるままにベッドに横たわると、エリーナさんが何かぶつぶつと唱えているのが聞こえる。
それを聞くうちに、俺は夢の世界に引き込まれていた。
ここは草原?
草原の中に一人の少女が立っていた。
この前、夢で出会った短髪赤毛の美人さんか。
「これが本当のエリーナさん?」
美人さんは頷き、自分がエリーナだと話す。
「私はちょうど生まれてから20年くらいになりますね。物心ついた時から、友だちがいなくて、いつも調子に乗るなとか言われてました」
こんな美人さんなら無理もないだろう。
基本、サキュバス=アバズレみたいな公式ができてるけど、本当はそうじゃない事例もあるよな。
清純そうに見えるエリーナさんを仲間に入れるのは辛かったんだろうな。
周りの奴らが悪いって決めつけられない……かも。
「私の擬態はステータスも擬態することができます。いっつもそうしてました」
桜色の唇から響く、甲高いソプラノの声が凄く心地よい。
おっぱいも大きいし、これは目立つよ。
実際、ふれられそうな質感も凄いし、夢とは思えない。
「エリーナさん。サキュバスがエッチをした場合、夢であっても身体は傷つくのか?」
これは聞いておきたい。
エリーナさんは可憐に微笑む。
「いいえ。夢は夢ですよ」
「そうか、よかったあ」
俺は心底ほっとする。
それなら作戦も大丈夫そうだ。
「マスター。そんなに優しくしないでください。私、慣れてますから」
ん?
「いえ、むしろ、ささいなことでも遠慮なくののしったり足蹴にしたりしてくださいね」
いや、そんな笑顔でそんなことを言われても……。
そんなの暴力じゃ、と懸念を述べると、エリーナさんはきっぱりと断言する。
「いいえ、ご褒美です」
……ダメだ。
とりあえず、俺は強引に目を覚ますと、横にはお婆さん姿のエリーナさんが期待に満ちた目で俺を見つめていた。
はい、退場~!
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