第33話  コレジャナイ

 異世界33日目 ダンジョンの執務室にて


 ノーラ婆さんが大きく杖を振りかざした時、ピンク色の煙が執務室内に大きく広がる。

 以前、この色の時にはミスティが現れた!

 期待できるぞ!


 煙が消えてきた時、人影を確認することができた。

 こ、これは、ついに人型モンスターか!!

 その姿をマジマジと見つめた俺は、思わず困惑の声を上げてしまう。


 そこに立っていたのは『お婆さん』だった。


 俺のダンジョンでは、お婆さん枠は埋まってるんだよ?

 コレジャナイ感が強い。

 ピンクの煙でこれかよ……。


 お婆さんは周囲を見渡すと、上目遣いでおどおどしながら自己紹介を始める。


「は、初めまして。私はエリーナと言います」


 ほう、お婆さんの割には若々しい声だ。

 でも、見た目はノーラ婆さんといい勝負だぞ。

 ま、とりあえず、ステータスを確認してみるか。


 サキュバス 体力22 力強さ1 魔法4 技量(攻)8/24 (防)8/24  

特殊技能 淫夢(男性にいやらしい夢を見させて、精気を吸い取り

            体力を回復する) 16/24

            擬態(自分が望んだ姿やものを相手に見せる)


 え?



 もう一度ステータスを見てみると、確かにサキュバスと書いてある。


「お前、サキュバスなのか?」


「え? は、はい。す、すみません……」


 頭を下げるエリーナさんに謝らなくてもいいと話しつつ、俺はやや混乱する。


 老婆がサキュバス?

 でも、考えてみればありえない話じゃない。

 物語には若いサキュバスしか登場しないけど、年を取ったサキュバスだっているはずだよな。


「おれはダイスケ。このダンジョンでマスターをしている。どうぞよろしく」


「は、はい」


 握手をした俺は、早速、その力を確かめることにした。

 それは、それ、アレですよ! 全男性の夢、サキュバスの淫夢を体験ですよ。

 婆さんだからといって、夢の中に出てくるのは違うだろう?

 お婆さんと××する楢山節考的な展開はノーサンキューだ!


 ところが、クリュティエやミスティを執務室の外へ出そうとすると、なぜか居残ると言い出した。

 おいおい、それはダメだぜ! 断固拒否する!!


「マスター……。何か顔がいやらしい。絶対、悪いことを考えてるでしょ」


 眉をひそめるクリュティエにこの言葉を贈りたい。



 お前に言われたくね~!



「マスター。私じゃダメ? ほら、私はいつでもOKなんだよ!」


 ミスティ、俺はわびさびのない睦事は嫌いなんだ。

 はい、エッチ! 的な軽いノリが嫌いなわけ!!


「俺はこのエリーナの能力を調べるだけだから、お前たちは出ていくこと」


「ええ~」


 不満そうな二人を強引に扉の外へ押し出して扉に鍵を掛けると、俺は早速サキュバスの術を受けることにした。


§


 エリーナさんは俺をベッドの上に寝かせると、リラックスするように言って肩の力を抜かせる。

 うん、確かに肩の力が入ってたぜ。

 だって夢にまで見たアレですよ!


「では、力を抜いて目を閉じてください」


 お婆さんの姿なのに、この声はいいぞ!

 目を瞑っていれば、目の前に若い女の子がいるような気持ちになる。


 そのまま、うとうとすると、俺の目に広い牧場が見えてきた。

 牧場の大きな木の下で、俺ともう一人の美少女が立っている。

 短髪の赤毛さんだけど、清純っぽい綺麗な顔立ちですねえ。


 こ、この女の子とアレやコレができちゃうんですか……。

 いいよ! この青空の下でっていうのも新鮮だ。

 結構、胸もでかいし、清純で胸が大きい娘っていいよね。


 うん、うん、お互いに抱きしめ合うなんて、いいシチュエーションだよねえ。

 このじらしプレイが、どんどん俺の期待を高めるよ。

 この後は、ついに……。




 ん?




 向こうに何か見えるぜ。





「THE END」





 俺は思わずベッドから跳び起きてしまう。

 

「おおい(怒)!!!!!」


 エリーナさんは、ビビって手で防御する姿勢になる。

 でもさ、これはないよね。サキュバスだよね?

 ん、ちょっと嬉しそうなのは何でだ?


 これからめくるめく快感がやってくると思ってるじゃん?

 ところが、抱き合って終了なんですよ。

 最近の中学生の恋愛でも、これはねえよ。


 その行き場のない怒りをエリーナさんにぶつける。


「ご、ごめんさない。で、でも、私……分からないんです」


 サキュバスなのに、エッチを知らない……。

 それって、肉のないすき焼きみたいなもんだよね?

 存在意義は何なんだ?


「わ、わたし、今までそんなこと見たこともしたこともないんです。だから、仲間に落ちこぼれって言われてました」


 心の底から脱力する。

 俺の肥大しきった期待を返せよ!

 しかも、目の前には60過ぎのロリボイス婆さん……。


 がっかりして、俺は力なく執務室の扉を開ける。

 そこには、怒っているクリュティエとミスティの姿があったが、俺のあまりの憔悴ぶりを見て、逆に心配し始める。


「マスター。もしかして、このお婆さんに何か悪いことされたの?」


「マスター。元気出して。私の胸で泣いてもいいんだよ」


 そんな二人を無視して、俺はひたすらダンジョンの入口を目指す。

 ついに太陽の照る場所につくと、思い切り叫んでしまった。





「これじゃないんだよう~」

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