第23話 薄い本

 午後まで日光浴をした俺は激しく後悔していた。


 背中が真っ赤で痛すぎる! 

 こんなに日焼けしたのは小学生の海水浴以来だな。

 こりゃ治療が必要だろということで、クリュティエに治療してもらうはめになった。


 これ以上の太陽光は危険きわまりないため、ノーラ婆さんが出現したのをきっかけに、町の散策を提案する。


「私、町って初めて!」


「私はパス。ダルイし、夜になったら出かけてもいいけど」


 やはりミスティは日光が辛そうだな。いつか、別のことで埋め合わせが必要だ。


「ん、マスター。寂しい? やっぱ一緒に行く?」


 俺の視線に気がついたのか、からかい気味にまぜっ返してくる。

 ウインクしながら俺の腕にさわり、距離を狭めてくる。

 ミスティ、童貞にその行為は禁止な。

 絶対、勘違いしちゃう奴が続出するから。


「駄肉女、マスターから手を離して。いやらしい」

 

「駄肉? ねえ、マスター。さわって確かめてみる?」


 ミスティが上着を脱ぐと、上半身が白の下着だけになる。

 いや、駄肉なんかじゃないです。

 ものすごく立派です。張りもありそう……。


「マスター!」


 クリュティエが抗議の声を上げながら俺の両目を手で塞いでくる。

 ああ、もう! 


「二人とも話が進まないからじっとしててくれ!」


「はい……」


 二人とも自分の席に戻り、姿勢を正している。

 それを見ているノーラ婆さんはやれやれと言った表情だ。


 日が暮れる前に町を一巡することに決定し、ミスティに見送られながら俺たち3人は散策に出かける。

 野菜や肉のマーケットが賑わいを見せる中、路上でのパフォーマンスも見ていて楽しい。


 タナランの町は人口は八千人とそれほど多くないというのに、この賑わいは予想以上だった。

 クリュティエも目当ての服を買うことができ、かなり嬉しそうに俺の横を歩いている。


 たくさんのマーケットを見ていく中、クリュティエは一軒の店の前で足を止める。

 本屋だ。


「ん? お前、本が読めるのか?」


「はい、読めます」


 本を読むのは悪いことじゃないし、俺も異世界の本を見ていきたい。


 中に入ると思ったよりも本が並べられていて、活版印刷が普及していることが分かる。

 お客も多く、それぞれ自由に立ち読みをしている。

 立ち読みがOKとは太っ腹だな。

 内容も多岐にわたっていて、少年文芸や少女文芸まで置いてあった。


 見ると、クリュティエが店員に熱心に話しかけている。


「少女が、……に、……されるようなお話はありますか?」


「勿論ございます。お嬢ちゃん、若いのに……。そのような薄い本はこちらにございます」


 気になる会話をしつつ、二人は別室に入っていく。

 俺は苦笑しつつ、壁を見ると、久しぶりにあの男の名前を見ることになった。


「絶世の美女がマーガロスのダンジョンに降臨。攻略すれば、その美女はあなたのもの。ダンジョンへの挑戦は、大人1人銀貨3枚、15歳以下は銀貨2枚で受付中!」


 銀貨3枚だと日本円で約3万円。

 レウコトエーさんをこんなぼろい商売に利用していたのか!怒りが込み上げるが、今、レウコトエーさんがいる場所が分かったのは朗報だ。

 ポスターに書かれたダンジョンの場所を素早くメモする。

 すぐにゼニスに場所を聞こう。


「まいどあり」


 たくさんの本を抱えて、クリュティエが部屋から出てくる。

 小遣いをかなり使ったらしい。


「クリュティエ。どんな本を買ったんだ?」


「秘密です」


 めっちゃ笑顔だが怪しい……。

 ま、いいだろう。 

 町の喧噪を聞きながら、俺たちは宿屋へと歩いて行く。


 このタナランの町は近くにダンジョンがあることで、経済が潤っているようだ。

 俺たちは宿屋に戻り、食堂でご飯を食べながら婆さんにいろいろ聞くことにする。


「ノーラ婆さん。ダンジョンマスターを倒せば冒険者が潤うことは分かった。でも、それ以外でダンジョンにくる意味はあるのか?」


「ああ、2つある。1つは、モンスターからは核石がとれ、それをお金に換えることができる。珍しいモノほど高いね」


 それは初耳だ。


「あんたのダンジョンでは、モンスターが倒されないからね。珍しいことだよ」


「ほう」


「あと1つは捕獲だよ。モンスターが欲しいっていう人もいるからね。動けなくして、奴隷の契約魔法で自分の命令を聞かせるのさ。これも、あんたのダンジョンじゃないからね。それも珍しいよ」


 モンスターに命令するために奴隷契約を結ぶのか……。


「クリュティエちゃんみたいな高位の妖精を奴隷契約なしで配下にするのは、あんたくらいだよ」


 俺は配下って思ってないからな。

 こいつらだって生きてるし、意思もある。


「あんたはモンスターを使い捨てにしないし、回復させるし、褒めてもやってる。頭撫でたりのコミュニケーションが嬉しいんだよ」


 だって、俺を助けてくれてるんだよ? 当たり前だと思うけどな。

 命を守ってくれてるしね。


「さっき見たモンスターの館では、目玉商品が男のシルフィード(風の妖精)で、金貨1000枚(約1000万円)だったよ。クリュティエちゃんだったら、どれくらいになるのか想像もできないよ」


 こんな変態がそんな高額で? 思わずクリュティエの頭をさわる。

 安心したような顔を見せるクリュティエ。

 黙っていれば美少女なのにな。


「だから、外に出たときも気をつけなよ。一攫千金を狙ってる奴も多いからね」


 とたんに周囲の状況が気になる。

 小さな食堂でも気を緩めないようにしよう。


「で、さっき買ってもらったこの杖、魔力を増やすのもそうだけど、モンスター発生のレベルを上げる効果があるみたいだね」


 マジすか?


「この部分には250年以上前の術式が組まれているから、レベルの低い道具屋は気がつかないんだろうね」


 すげえぞ! 婆さん。

 つか、婆さんっていったい何歳なんだよ。


「レディーに年を聞くのは野暮だぞ。マスター」


 レディーって年かよ。

 でも、これはいい買い物をしたね。

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