第24話 コンサート
ダンジョン24日目 ダンジョン近くの町 宿泊している宿屋 近くにいる仲間 クリュティエ、ミスティ、ノーラ婆さん
「ダイスケさん、クリュティエさん、お迎えに参上しました」
ギレンが約束通り、昼食後を見計らって俺たちを迎えに来る。
女性を二人同行させているところを見ると、マネージャーみたいなものなのかな?
会場になっている劇場に向かう途中、建物の壁にコンサートを紹介するポスターが数多く貼られているのが分かる。
やっぱり、この人、やり手なんだよなあ。
劇場は、煤けた茶色の煉瓦で作られた高さ30m、幅80m、奥行き120m程の建物であり、オペラハウスとして使われていると説明を受ける。
中に入ると座席数が800程度設置されており、舞台も装飾が施された本格的なステージが広がっていた。
二階には赤と金を基調としたバルコニーまで装備されており、町の規模に合っていないくらい立派だ。
ここで、歌を歌うのか?
ステージを案内されている時に、クリュティエはそっと俺の手を握ってくる。
微かに震えているのを感じる。
「どうする? 止めとくか?」
クリュティエはブンブンと頭を振って拒否し、俺に宣言した。
「歌うよ、聴いてもらいたいし」
震えながらもきっぱりと言い切る。
いい話のように聞こえるけど、ん?
俺の目標は「元の世界に帰る」ことなんだよな。
別にクリュティエの夢? を応援することじゃないんだが……。
その後、クリュティエは控室に移動し、発声練習に取り組み始めた。
俺たちは、何と二階にバルコニー席を用意してもらっており、そこから応援することになった。
「こりゃあ、好待遇だねえ」
眺めのよいフカフカの席に、ノーラ婆さんもご満悦だ。
俺はあたりを散歩してくるよと言い残し、ミスティに目配せをして、その場を後にする。
劇場の隣に広いロビーが併設されており、天井には稚拙ながらもフレスコ画が描かれている。
俺はそのアートを眺めながら、端の目立たないベンチに座りミスティを待つ。
「マスター。デート?」
満面笑みのミスティを隣に誘い、何気ない表情で前を向きながら話す。
「お前、気付いてたか?」
「こそこそ、私たちをつけてる奴らのこと?」
ミスティは笑顔のまま事もなげに話す。やっぱり、こいつも気付いてたか。
「そうだ。あいつらの正体も目的も分からない。ただ警戒だけはしておこうと思ってね」
「で、何をするの?」
「お前、小さなコウモリになれるか?」
「うん、なれる」
「じゃあ、変身してクリュティエの部屋に行ってもらう。そこで情報収集に努めてくれ」
「おけ」
二人で人影のない建物の陰まで移動し、そこでミスティは10cmほどのコウモリに変身する。
俺の頭上を2回ほど旋回したあと、クリュティエの控室に向かっていった。
(考えすぎかな……)
そう考えながらホールに戻ると、さっきもこちらを見ていた男が柱の陰に寄りかかっている。
まず間違いない。
でも、なぜだ? 俺は歩きながら、その可能性を頭の中に1つずつ挙げていく。
1つ目は、クリュティエを奪う。
2つ目は、俺たちが途中で逃げられないよう監視している。
3つ目は、地球人と何らかの交流を持ちたい。
やばいのは3つ目だ。その目的が全く見当もつかない。
この前のダンジョン攻略に関わっていた人物も地球人のはず。
なぜ、異世界人に協力しているんだ?
二階のバルコニー席に戻り、ノーラ婆さんの隣に座ることにする。
「マスター、何かありましたか? ところでミスティは?」
「あいつ、しばらく町を見たいんだってさ。しょうがないやつだよな」
何でもなさそうに答えて席に着く。
くよくよ考えていてもどうにもならない。
今はクリュティエの初舞台を応援してやるか。
けれども、もうすぐ開演だというのに観客は数えても100名ほどしかいない。
ガラガラだよ。ギレンの奴、満員にするとか言ってたのに。
そんな中、幕が開いてクリュティエのステージが始まった。
ガラガラの観客席を見ても、あいつは別に悲しそうな顔はしなかった。
いつも通り、輝くような笑顔で歌を歌い続けたんだ。
100名ほどの観客は完全に魅了されていた。
まあ、いつもの常連さんもちらほらと見かけはしたけどな。
休憩を挟んで約1時間ほどのステージは、命の躍動に満ちていた。
いつもの迷惑行為をまき散らす変態ではなく、透き通った歌声で観客を魅了するアイドル(吟遊詩人的な何か)になっていた。
詐欺っぽいけど、騙し続けたら本当になるしな。
「みなさ~ん、ありがとう~」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
地の底から響き渡るような歓声が響き渡る。
2回もアンコールをして、ファーストステージは終わったのだった。
ま、まあ、いい感じだったよ。
控室に移動すると、黒い影がさっと外へと飛んでいく。
ミスティだ。
椅子に腰掛けていたクリュティエは、疲れた様子を見せていたけれど、顔を輝かせて興奮冷めやらぬという感じだ。
「マスター。すっごい楽しかったよ。みんな、喜んでくれてたし」
クリュティエは大喜びだ。
隣に立っていたギレンも、
「素晴らしいステージでした。みなさん、感動の嵐でしたね」
と絶賛している。
俺が100人程度の観客で大丈夫かと懸念を伝える。
「100人も、ですよ、ダイスケ殿。正確には113人ですけど」
ギレンは思惑通りだと言わんばかりだ。
そこに、ミスティがドアを開けて入ってくる。
「お、ミスティ。どこ行ってた?」
しらばっくれたような顔で俺が尋ねる。
「ちょっと町が気になったから、見てた。ごめ~ん」
と、ウインクしながら答える。
周囲は苦笑いだ。
俺以外はね。
「クリュティエさんの取り分ですが、一人大銅貨2枚×113人=大銅貨226枚ですので、半分の大銅貨113枚となります。銀貨11枚と大銅貨3枚ですね」
といいながら、出演料を無造作に机上に置いた。
久々に銀色の光を拝めたな。
「明日は、もっと驚くことになりそうです。では、ゆっくりお休みください」
ギレンが立ち去り、俺たちも宿へと向かうのだった。
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