第21話 トラブル勃発

ダンジョン23日目 ダンジョン外の町 仲間 ノーラ婆さん、バンパイアギャル  

(ミスティ)、水の妖精


「それでは乾杯!」


「かんぱ~い」


 ギレンさんがオススメの酒場は、上品7:賑やか3といった感じの座席数10程度の酒場だった。

 壁にはずらっとお酒が並べられ、ビールは樽から汲まれている。

 久々のビールが刺激を伴って喉の奥に滑り落ちていく。

 苦さと炭酸の刺激が心地いい。


 ノーラ婆さんも美味しそうに喉を鳴らしている。

 ミスティも、ぐいぐい飲んでるのが怖い。

 で、だ。

 クリュティエもガンガン飲んでるのはどうなんだ?


「クリュティエ、お前、まだ未成年だろ? 止めとけよ」


 けれども、クリュティエのお代わりは止まらない。


「マスター。私はマスターより年上の64歳ですよう~」


 と、カミングアウトしながら何杯も注文しやがった。

 それをきいたミスティは、


「え、マ? お婆ちゃんじゃん! ちな、私18歳。うぇーい」


 とマウントをとる。

 クリュティエは膨れながらもグイグイ飲んでいく。

 ピッチが早すぎる。

 それを見ていたミスティが、ニヤリと悪い顔になる。


「店員さ~ん、もっと強いお酒あります?」


 すぐに黒い服を着た店員がとんでくる。


「はい、ございます。葡萄を原料としたズィズネーニャなどいかがでしょう?」


「じゃんじゃん、持ってきて!」


 俺たちのテーブルの上には、蒸留酒が次々と並べられる。

 琥珀色でアルコール度数が強そうなのは間違いない。

 匂いだけで酔いそうだな。

 誰が飲むんだよ……。

 ミスティは小さなグラスにトプトプと酒を注ぐと、


「クリュティエ飲みます。ジュビドゥバドゥ。はい、飲~んで、飲んで、飲んで、飲んで、飲んで、モ!」


 と、コールを始めやがった……。

 ホストかよ。

 クリュティエはそれにつられて、強い酒をぐいっとあおっている。


「うぇ~い!」


 ハイタッチをしながら、ミスティはその場を盛り上げている。

 ミスティの暴走は止まらない。

 クリュティエが飲み終わり、グラスを置いた瞬間、


「ご馳走~さまが聞こえない。はい、パーリラ、パリラ、パーリラ、どんどん!」


 と、さらにお酒を注ぐ始末。

 クリュティエもムキになってぐいっと飲み干した。


「クリュティエ、うぇ~い!」


 少しずつクリュティエの目に赤みが差していく。


「馬鹿、もう止めろ!」


 手を押さえて、強制的にグラスを置かせる。

 けれども、クリュティエは逆に絡んでくる。


「どうせ、胸のない私は馬鹿ですよう」


「は? 胸は関係ないだろ」


「その胸のない女にメロメロのくせにい」


「お前、延髄切り、くらわせるぞ!」


「どうぞ、マスター。私に熱いモノを思い切り……」


 こいつ、絡み酒か? 

 このあと突然、机に突っ伏してクウクウと寝てしまった。


「明日のコンサートに響かなければいいんですが」


 ギレンは相変わらず微笑みを絶やさない。

 また、ミスティに興味津々の態度がアリアリである。


「ダイスケさん、こちらの女性も綺麗な方ですね。紹介していただけますか?」


「ほら、綺麗って言われてるよ~。マスターも褒めてもいいんだよ。あ、私ミスティって言います。よろ~」


「はは、明るい方ですね」


 ミスティの属性にギレンも圧倒されてるようだな。

 無理もない。


 クリュティエとは違って、赤い瞳と透き通るような白い肌。

 整った小顔と八重歯っぽく見える牙もチャームポイントだ。

 黒髪も珍しいし、胸も強調されていてプロポーションも抜群だ。

 俺も本性が分からなかったら、メロメロだったろう。


 俺は頭がはっきりしているうちに、ギレンとの契約を済ませることにする。


「で、クリュティエに歌わせたいということだったが」


「ええ、明日と明後日の2日間2公演でお願いしたいのです。時間は夕暮れの少し前を予定しています」


 ギレンはエールをぐっとあおり、俺の目をじっと見つめる。

 さすがに興行を仕切っているだけある。強烈な目力だ。


「ギャラは、折半でどうでしょう」


 破格の提案すぎる。何か裏があるのかと考え込んでいると、


「才能のある子を伸ばして、その結果、私が儲けて、観客も幸せ、貴方も幸せになる。それが私のモットーなのです」


 と、自分の疑いを見透かしたように答えてくる。


「分かった。契約しよう」


「おお。ありがとうございます」


 その場で契約書にサインし、しばらく談笑してお開きになる。

 勘定はもちろんギレン持ちだ。

 その後、コンサート会場や町を案内してもらい、宿泊する場所に到着する頃には、日が傾いていた。


「それでは、明日の昼食が済む頃に参上いたします」


 ギレンはすぐに立ち去っていった。

 俺はゼニスに目配せすると、


「みんなは先に夕食を済ませ、部屋で休んでいてくれ。俺は必要なものを購入するためにちょっと出かけてくる」


 すると、ミスティは疑惑の眼差しを俺たちに向けてきた。


「え、何か怪しいんだけど」


「べ、別に何も怪しくない。これからのダンジョン生活で必要なものを購入するだけだ」


 クリュティエも酔眼を開けて、こちらをじっと見てくる。


「ほ、ほら、すぐに帰ってくるからね」


 俺たち二人は逃げるように、その場を離れていった。

 

「危なかった……。でも、ゼニスさん、頼むぜ!」


「勿論! いい場所にご案内しますよ」


 ゼニスに先導されて、俺は一軒の酒場にたどり着く。


「いらっしゃいませ~」


 ほう。なかなか素敵な女の子達がそろっているじゃないか。

 振り向いてゼニスさんを見ると、無言で親指を立ててくる。

 ナイスだよ。


 でも、考えてみれば、こういったお店は初めてなんだよな。

 まあ、流れに身を任せて異世界デビューといこうか! 

 まずは軽い食事を取りながら、お姉さんがやってくるのを待つ。

 俺が窓際の席に座っていると、


「私、エマって言います。初めまして」


 女の子がやってきた。

 しかも、大きいんです。

 俺の目はそれに釘付けになった。

 顔も童顔で可愛いな。


「お客さん。おっぱい好きなんですね」


 俺の視線に気付いたエマさんが、お酒をテーブルに置きながら悪戯そうな視線を向けてくる。

 そして、少し服をはだけて白い肌を見せつけてくる。

 え? ブラしてないの? この時代は?


 俺の波動砲はすぐに充填率が上がっていく。

 沖田艦長もびっくりなレベルだよ。


 ふらふらと手を伸ばしていくと、妙な視線を感じる。

 顔を上げて窓の外を見ると、そこにはクリュティエがこちらをガン見しているではありませんか。


「!!」


 俺の波動砲は、すぐにセーフティーゾーンまで下がっていった。

 何なんだよ……クリュティエ、後をつけてたのか。

 ゼニスに訳を話して外に出ると、クリュティエが睨み付けてくる。


「マスターは不潔です。こんな場所で女性の胸をさわろうだなんて」


 クリュティエはプンプン怒っている。

 だがな、こんな場所で触るのは正解だろう?

 そういう場所なんだし。違法でもないんだし。


 まだ、酔ってんのか?

 けれども、クリュティエは黙って俺の服を掴むと、建物の壁に背をつけて、俺を見つめてきた。


「マスターがしたいなら……。好きなだけ……どうぞ」


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