第2章 ダンジョンの外はデンジャラス

第20話 ダンジョン攻略……?

 ダンジョン23日目 ダンジョン執務室 仲間 ノーラ婆さん、バンパイアギャル  

(ミスティ)、擬態スライム、水の変態、C級以下のモンスターがいっぱい


 明日はついに2回目のダンジョンアタックというのに、俺は何だか落ち着かない。

 進化したミスティのおかげで、どのようなダンジョンでも有利に戦いをすすめていける……と思う。

 ギレンが見つけてくれたダンジョンは、できて間もないことが分かっている。


 でも、何か見逃していないだろうか?


 疑い深い俺は、常に物事の裏を探るような癖がついてしまってる。

 ダンジョンマスターってのは、そういうもんだと思ってるがな。

 でもチャンスはチャンスだ。

 止めるという手はない。


「ま、行くしかないよな」


「えっ? マスター、何か言いました?」


 俺とプロレスのスパーリングをしているクリュティエが独り言に気づく。

 彼女はピンクのブリオー(上着)にブレーという灰色の長ズボン、白の丈の長いシュース(靴下)という服装で、汗で服が身体にへばりついている。

 俺は現代から着てきたジャージを身にまとっている。

 動く時はジャージ一択だ。


 クリュティエは、今まで俺にかけられた技を覚えたいらしく、それ以来、何度か基礎練習に励んでいるのだ。


「何でもねえ。それよりも受け身、もういっちょう」


「はい」


 今はダンジョンマスターじゃなくてトレーナーだな。

 擬態スライムがレベルアップして大きくなり、リング程度の広さのマットを地面に作り出している。

 歩ける固さと、適度なクッション。

 スライム、お前も凄く役に立ってるよ。

 

「こい、クリュティエ!」


「だっしゃらあ」


 互いの肩を組んだ後、俺は彼女を地面に転がし、そのまま受け身をとる練習を繰り返す。

 全然、ダンジョン攻略っぽくないな。

 ミスティはその様子を椅子に座りながら興味津々で眺めている。


「お前もやるか? ミスティ」


「うん、やってみたいかも」


 けれども、その前にクリュティエが立ちはだかる。


「マスター。こいつには不埒な目的がありそう。要注意だよ」


「は? あんたの方が、やらしい動きなんだけど」


 ギャアギャア言い合いながら練習が止まってしまう。

 あのなあ。どっちでもいいけど練習しようぜ。


 §


 ついにダンジョンアタック当日がやってきた。

 俺の横にはクリュティエ、ミスティが立ち、その後ろにはノーラ婆さんと角モグラ、コウモリたちが控えている。 

 早朝からゼニスは俺のダンジョン入口で待機しており、命令一下で札を設置することになっている。

 俺はゼニスと固い握手を交わす。


「じゃあ、ゼニス。後で会おう」


「ご武運を」


 その次の瞬間、ゼニスの手を引き耳元でつぶやく。


「頼むぞ! お姉さんの店」


「任せといてください」


 さらに握る力が強くなった。

 声は俺にしか聞こえない大きさだった。

 よし、気合い入ったぜ!


 ゼニスが外に出て行くやいなや、入口が暗くなり、ダンジョンの入口が繋がった。

 前回は生臭い匂いが漂ってきたのだが……。

 無臭? 土の匂いしかしない。


 というより、モンスターの匂いがしない。

 敵のダンジョンは松明が所々につけられているものの、かなり薄暗い。

 自分の能力で見てみると……?


 モンスターがいない!


 洞窟を100mも進むと行き止まりになっていて、40歳くらいの男が一人で座っていた。

 しかも、防具なしで普通の服を着ている。

 どういうことだ?

 

 それでも、ミスティは守るように俺の前に立ち、じっと相手を見つめていた。

 特殊攻撃を警戒してるんだな。


「ダイスケ様ですね。降伏します」


 早! まだ、いつもの台詞を言ってないのに!

 ミスティも拍子抜けの様子だし、クリュティエに至っては歌を歌い出してるじゃねえか。

 

「それと私はこちらを準備しました」


 横に置いてあった小さな木箱を開ける。

 中には5cmくらいの真っ赤な宝石が台座に置かれていた。

 赤いところを見るとルビーか?


「ダンジョン攻略後、ギレンさんに返してくださいね」


 これで分かった。


 こいつはサクラだ。

 どうやっているのか分からないが、ギレンが自分の息のかかった知り合いにダンジョンを作らせている。

 多分、入口を閉鎖しているんだろう。


 当然、発生するモンスターも低レベルで対応は可能。

 まあ、確かに3日間の外出権をもらえるから、やる奴はそれなりにいるのかもしれない。

 俺は最後に名前を確認する。


「ああ、申し遅れました。私はケンと申します」


 ケン? 何だか日本人っぽい。

 そういえば、確かにアジア人っぽい顔つきだ。

 けれども、それ以降、ケンは雑談には全く応じなくなった。


 降伏の言葉の後、俺の手には宝石入りの箱が残り、ダンジョンの入口の前に立っていた。

 というか、まだ30分も経ってないぞ。

 俺はダンジョンの入口に恐る恐る手をかざす。


 ない! いつもの透明な壁がない!

 自由! 俺は自由だあああああ!


 俺は思わず外に向かって走り出していた。

 後ろから、クリュティエやミスティが追いかけてくる。

 俺は久々に圧迫感のない世界の素晴らしさを再認識していた。

 そのため、気がつけば1kmくらいダッシュしてしまった……。


 俺と一緒に外に出たいと申し出てきたのは、クリュティエ、ミスティ、ノーラ婆さんの3人だった。

 人型以外は洞窟の方がいいらしく、みんなダンジョンに戻っていった。

 丘や川を堪能した後、ゼニスと合流する。

 ゼニスの横にはギレンがにこやかな顔で立っていた。

 

「お見事です。ダイスケ殿」


 優雅な挨拶で、俺たちを迎えてくれる。

 俺がルビーの入った箱を渡すと、中を確認したあと、


「さ、昼食の用意がしてあります。ご案内しましょう」


 と、俺たちを店へと誘うのだった。

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