第15話 お姉さんのためにダンジョン攻略

 ダンジョン17日目 ダンジョン執務室 配下 サモナー婆さん、吸血コウモリ(ミスティ)、角モグラ×3、擬態スライム、水の妖精(事案)


「ゼニス! 俺は外に出たい!!」


 執務室の机を挟んで座っている御用聞き商人ゼニスに、俺は真剣に頼み込む。

 そろそろね、リビドーが限界かも。


 だってさ。

 何かと言えばちょっかいをかけてくるクリュティエがうざい。

 見てくれだけはいいから、ちらっと見てしまうわけよ。

 その瞬間、


「ああ、私、マスターになめ回されるように見られてる。もう目で〇〇されたのと同じね」


 とか言い出すわけだ。

 断じてねえよ! 

 でも、欲求不満で事案に繋がるようなことをしてしまったらどうするよ。

 ええ、ゼニスさんよ。


 半ばゼニスを脅すように話してしまった。

 でも、外に出たいんだ!

 こっちにだって、お姉さんのお店ぐらいあるだろう?

 いつまでも穴蔵暮らしは気が滅入る。


 ゼニスは真剣な顔つきで話に聞き入っている。

 推しのアイドルに危機が迫っていると思ったかもな。


「分かりました。可及的、速やかに攻略できるダンジョンをご紹介します」


 頼むぜ! ゼニス。

 俺たちは期せずして、固い握手を交わす。

 それぞれの大切なもののために。


 次の日の朝、ゼニスは朝食前に現れた。

 この仕事の早さ、嫌いじゃないぜ。

 ゼニスは執務室の机の上に1枚の紙を置いて話し始める。


「ダイスケはん。このダンジョンは誕生してからまだ5日。冒険者の話だとコボルドしか出ないそうです」


 よし。5日目くらいなら、うちのメンバーでもいけそうだ。

 コボルドは犬頭で褐色の肌をもつ1mほどの人型モンスターだ。

 D&Fのゲームだと、体力は低く、素早いけれども特殊攻撃はない。

 ゼニスの口ぶりからも、コボルドは弱いモンスターという認識でいいようだな。


 でも、ダンジョン攻略ってどうやるんだ?


 ゼニスは懐から、お札のような紙を取り出し俺に見せる。


「この札を入口につけるだけです。向こうのダンジョンの入口にも札を置いておきました。それで空間がつながるんです。あとは敵のマスターを倒すか降参させるだけです」


 そんなに空間が簡単につながるのか、恐るべし異世界。

 だから、レウコトエーが……。


「よし! じゃあ、昼のモンスター出現を待ってダンジョンを攻略だ!! 張り切っていくぞ!!」


 ダンジョンの仲間たちは訝しげに俺を見ているが、無視!

 婆さんは、相も変わらず血まみれコウモリを召喚し、自然のスポーンも血まみれコウモリだった。

 呪い(ドはまり)は継続中か。


 こちらの戦力は、バンパイアバット(ミスティ)、血まみれコウモリ×2、角モグラ×3、擬態スライム、水の妖精になる。

 相手は人型モンスターだから、コウモリは相性がいいな。

 素早さについてこれないはずだ。


「で、では、行くか」


 ゼニスは外で勝利を祈っているといい、入口に札を設置してくれた。

 すぐに、入口が暗くなりダンジョンの入口が繋がった。

 うちのダンジョンとは違い、生臭い匂いが向こうから漂ってくる。


 敵のダンジョンは松明がつけられており、洞窟が明るく照らされている。

 通路は俺のダンジョンとほぼ同じだな。

 ミスティに偵察を命じ、俺たちはゆっくりと前に進む。

 土のダンジョンのため角モグラも進みやすいようだ。


 50mほど進んだろうか。

 前方からコウモリの鳴き声が聞こえてきた。

 ミスティから敵を発見した合図だ!


「では、作戦通り戦うとしようか」


 対コボルド戦がスタートした。


 基本的に戦いはモンスターに任せ、自分は後方で状況を確認し指示を出すスタイルを試してみる。

 自分の頭に浮かんでいる方眼マップは、ミスティが見た見た部分が白くなり、ダンジョンの構造が明らかになっていく。


 ミスティが敵を発見するのと同時に戦闘が始まった。

 まずクリュティエが歌い、戦闘の人数を減らすことが作戦の中心だ。

 歌はコボルドに効き、すでに2匹がその場から動いていない。


 俺はステータスを確認する。

 コボルド 体力8 力強さ1 魔法0 技量(攻)5/24 (防)5/24

 特記事項もないし、ミスティや角モグラの敵じゃないだろうな。


 すでに地面で大いびきをかいているため、クリュティエに剣を回収するように命じる。

 角モグラや血まみれコウモリも、ダメージもなく敵を倒して前に進んでいる。


(順調すぎるくらいだ)


 もうすぐ、3日間外出できるチケットが手に入るけれども油断は禁物だ。

 俺も前線までゆっくりと移動する中、戦闘部隊は、あっさりと敵のダンジョンマスターのもとへたどり着いていた。


「へえ、結構、攻略が早かったね」


 年代物の椅子に年若いダンジョンマスターが腰掛けていた。

 やけに落ち着いている姿に若干不安を覚える。

 ただ自分の脳内マップには敵のモンスターが光っていない。


 大丈夫だ。

 俺はお約束の言葉を彼に伝えることにする。


「君には2つの選択肢がある。降伏するか、命を差し出すか」


 まるで高校生のような男の子だから降伏してほしいぜ。

 別にモンスターも命もいらんからな。


「そうだなあ。どっちも嫌だ」


 は? それはありか。

 思わず敵に尋ねてしまう。


「ああ、ありだよ。だって」


 そう言うと、男は背中に隠していた細身のソードを抜き放った。

 刀身に松明の灯りがゆらゆらと映っている。


「君たちが降伏するからね」


 そう言うと、男は俺に向かって突進してきた。

 速い!

 みんなあっけにとられる中、敵の剣が正確に俺に迫ってくる。

 ミスティが俺に体当たりをしてくれたおかげで、俺に当たるはずだった剣がミスティの腹をかすめる。

 

「ミスティ!」


 ミスティはそのまま地面に落ち、荒い息を吐く。


「俺たちのダンジョンに逃げろ!」


 大声でそう命令を出した。


 ミスティを拾い上げ、抱き抱えたまま逃げていると、じんわりと服に血がにじんでくる。

 後ろから敵のダンジョンマスターの哄笑が聞こえてくる。

 甘くみてた。

 なぜ、今まで攻略されていなかったのか考えるべきだった。


(こうなったら、被害を最小限にしないと)


 もう負けだ。

 このままだと敵に奪われるのはクリュティエで間違いない。


(ド変態だが伸びしろがあるし、見てくれは可愛いからな)


 レウコトエーの苦い経験が頭をよぎる。

 あっという間に自分たちのダンジョンの入口近くに到着するが、敵のダンジョンマスターもゆっくりと迫ってくる。

 なめられてるな、ちくしょう!


 このまま、自分たちのダンジョンに逃げても助かる道が思いつかない。

 降伏することを決断する。


 男はゆっくりと俺にソードを向けてきた。

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