第14話 イノ〇 ボンバイエ!

 異世界12日目 ダンジョンにて 仲間 ノーラ婆さん、血まみれコウモリ×3(うち1ミスティ)、角モグラ×2、変態


 翌日、婆さんが現れるやいなや、すぐにミスティの合成を頼む。


「まあ、任せときな」


 そう言うと地面に書いた魔方陣の中央にミスティを置き、その横に2匹の血まみれコウモリを置いた。

 みんなが見守る中、呪文が唱えられて魔方陣が輝きミスティの身体が濃紺色に光る。

 身体が大きくなり、魔方陣から羽根が飛び出すくらいになっている。


「これは進化したねえ。吸血(バンパイア)コウモリだよ」


 バンパイア? 血を吸うのか?

 聞けば、これまでの攻撃に吸血攻撃、麻痺攻撃が加わるらしい。

 いいぞ! 麻痺は使いどころがある。


 どれ、早速ステータスを確認する。

 吸血コウモリ 体力18 力強さ3 魔法0 技量(攻)10/24 (防)12/24

   特殊攻撃 超音波(相手を混乱させる) 12/24  麻痺 8/24

        吸血(相手の体力を奪う) 8/24

 攻撃の中心になりそうだな。


 あと、ステータスを見ていて、あることを確信する。

 それは、D&F(ダンジョン&ファイターズ)のシステムと同じように、24面のダイスを振って全てを決するようだ。

 技量(攻)10/24だと、24面ダイスを振って1~10が出たら当たりだろう。

 技量(防)12/24だと、12以下で当たりの攻撃をかわしたことになる。


 実にシンプルなゲームシステムだ。

 ここでダイスを振るのは神だろうがな。


 そんなシステムに思いを馳せていると、苦しそうな息が聞こえてくる。

 呼びかけてもミスティは首を持ち上げるだけで、翼で羽ばたくことができない。


「婆さん?」


「大分、弱ってるね。あんたの血でも吸わせたら?」


 は? 俺、バンパイアの眷属になるんじゃね?


「別にならないよ。吸血コウモリの食事が血ってこともあるし、ちょっとだけ吸わせてみなよ」


 怖い。

 でも、今までのミスティの貢献を考えればな。

 別に俺が干からびるまでは吸わんだろ。


「よし、ばっちこーい!」


 腕を捲り上げ、ミスティの前に差し出す。

 ミスティは口を上げると、俺の腕にそっと牙を刺す。

 ふむ、別に痛くないんだな。


 献血をしたときの感覚に似てる。

 ミスティの喉が動いているのは少し気味が悪いけどな。

 結構吸ってね?


 ようやく牙を離すとミスティは翼を広げて空中に飛び立った。

 全長が30cmの黒い塊が空中を飛ぶのは、なかなか迫力がある。

 元気になって良かった。


 また、突然、見慣れない丸い物体が出現した。


「ほう、スライムだねえ。しかもオリーブ色とは珍しい」


 ぶよぶよと足元で動いている。

 大きさは30cmくらいか。


「何か違うのか?」


「こいつの名前は擬態スライム。様々なモノに擬態できるよ」


 そう言うと婆さんはケースに戻っていった。

 今日はグッジョブだ! 婆さん。

 いつか杖でもプレゼントするか。


 それよりスライムが来て嬉しいことがある。

 それは下水処理!

 今までは、穴を掘って埋めていたモノを処理してくれるってことだろ。


 心からありがとう! スライム!


 もう一つ、嬉しいことがあった。

 俺自身にダンジョンを方眼紙の上に映し込むように見える能力が備わったんだ。

 いきなり、そいつが見えたときには驚愕だった。


 しかも離れていても味方のモンスターと話ができるし、ステータスを確認することもできる。

 これで、ようやくダンジョンマスターらしい迷宮が作れるし、モンスターを思い通りに動かせる。

 これまでは俺が前線に出て、指示を出していたからなあ。

 ダンジョンマスターじゃなくて、ポ〇モンマスターだったよ。


 早速ゼニスさんに、机、椅子、紙を注文する。

 これから、忙しくなりそうだ。

 クリュティエがスライムに興味津々なのは、なんか気になるがな。

 それから、俺はダンジョンの設計にのめり込んでいった。


 まずは入口の右側の通路にコンサート会場を設営し、金を搾り取る。

 それ以外の冒険者には、左の通路を進んでもらい、罠とモンスターの洞窟を楽しんでもらう。

 この楽しむっていうのが大事だ。

 辛いだけだとリピーターにならないからな。


 今日も大漁(ニヤリ)。


 侵入者が途切れたことを確かめて、ダンジョンの整備に取り掛かる。

 角モグラに穴を掘り直してもらい、罠の敷設はクリュティエに任せる。

 入口の石をひっくり返し「今日は終了しました」を見えるようにする。

 それでも入ってくる冒険者がいるけど、ま、初心者であれば対応は難しくない。


 作業も終わり洞窟の入口から夕方の太陽を見ていたら、急にレウコトエーさんのことを思い出した。


 あんなに素敵な人を自分の油断で連れ去られてしまった。

 今頃、あんなことやこんなことをされてるんだろうか。

 溜息をつき、振り返るとそこにクリュティエが静かに立っていた。


 何かシルエットがおかしい。

 胸が巨大すぎる……おかしいだろ!!


 この前、レウコトエーさんのことを話したのがいけなかったか。


「マスター」


 胸の谷間を強調して屈んでいるが不自然! さては!


「スライム、こっちへ来い!」


 その瞬間、クリュティエからぼとりと胸が落ちる。

 こいつ! スライムを胸に擬態させるなんて! 

 とことん腐ってやがる。


 猪〇、ボンバイエ(やっちまえ)、猪〇、ボンバイエ(やっちまえ)……

 頭の中でアントニオ〇木のテーマが流れる。

 俺のもう一つの特技、プロレス技で懲らしめるしかないな(怒)。


「スライム!! リング ロープ!!」


 するするっと、スライムがリングロープをつくり出す。

 何度もこいつと練習したぜ。

 こんな時のためにな。


 クリュティエの手を掴み背中をリングロープに振りとばすと、ロープがいい形でクリュティエをはじき返してきた。


「ウィー!!」


 俺は左手を高くダンジョンに掲げ、雄叫びを上げる。

 人差し指と小指をを突き出す、テキサスロングホーン!

 狩るぜ!! 俺には今、プロレスラー『スタン・ハンセン!!』が乗り移ってる。


 クリュティエの首の下を狙ってウエスタン・ラリアット炸裂!! 

 クリュティエはそのまま一回転して地面に倒れ込んだ。


 ステータスを確認すると、

 水の妖精 体力32/33 力強さ2 魔法6 技量(攻)9/24 (防)8/24  

      習得魔法 泉24/24 水球24/24 水癒19/24 催眠の歌声15/24

      ※特記事項有り


 物理ダメージ9割減は0になるというわけではないんだな。

 それでも、1しかダメージが入らないのは凄いな。


 でも、レウコトエーさんを汚した罪、思い知れ……。


 目を回しているクリュティエをその場に放置する。


「スライム。いいリングだったよ」


 次は大技に挑戦してみるか。


 ------


 ※ウエスタン・ラリアット 

 プロレスラーのスタン・ハンセンの必殺技。

 片腕を横方向へと突き出して相手の喉や胸板に目掛けて叩きつける。

 リングに飛ばされてから戻ってくる際にやられると

 強烈な破壊力になる!

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