第13話 連携

 異世界11日目 ダンジョンにて 仲間 ノーラ婆さん、血まみれコウモリ×2(うち1 ミスティ)、角モグラ×2、水のょぅ❘゛ょ


 午前のコンサートが終わって昼食を食べていると、突然ミスティが警戒音を上げた。

 どうやら本物の冒険者がやってきたらしい。

 視認できるだけで3人。

 みんなを戦闘配置につかせる。

 肌がチリチリするぜ。


「クリュティエ。歌で眠らせてやれ!」


 コンサートとは違った歌がダンジョン内に響き渡る。

 一人はいびきをかきながら寝てしまったため角モグラに足元から攻撃させておく。

 これは、よい連携だな。


 残りの2人は眠ることなく、剣を抜き放ち、ゆっくりと前に進んでくる。

 今、このダンジョンには2つの通路しかない。

 Y字になっていて、右側の通路は罠がたくさん仕掛けてあり、左側の通路の奥には俺たちがいるのだ。


 ミスティが超音波を発し、混乱させた一人を右側の通路に誘導する。

 勝手に罠にかかったところを角モグラに任せる。


 問題はもう一人の冒険者だ。

 明らかに使い古された防具を身にまとっていて、レベルが高そうに見える。


「クリュティエ、水球!」


 足元を濡らしても転んだりしないよな。

 角モグラが足元から攻撃をするものの、足に軽いダメージを与えただけで突進は続いている。

 ミスティが爪で切り裂きを行うものの、逆に翼をソードで切り裂かれてしまった。


「ミスティ!!」


 地面にミスティが落ち、それを乗り越えて冒険者が俺の目前まで近づいてくる。

 松明が灯る中、冒険者は高く剣を振り上げていた。

 刀身にオレンジ色がゆらゆらと映っている。


 振り下ろした瞬間、ガラスの砕ける音が響き、無数の欠片が冒険者を切り裂く。

 ゼニスさん、鏡が役に立ったぜ。

 同時に上から透明な酒が、雨のように振ってくる。

 簡単なトラップだ。


「うお!」


 叫び声と同時に冒険者の鎧がアルコールの匂いに包まれ、匂いがダンジョン内に広がっていく。

 俺はライターで小さな麻布に火をつけ、冒険者目がけて投げつける。

 冒険者には当たらずに地面の液体に火がついた瞬間、炎が燃え上がった。


「簡単な鏡と酒のトラップさ。ベタで悪いね」


 冒険者は炎に包まれ動けずにいる。

 ここは降伏勧告だな。


「降伏するか?」


「……降伏する!!」


 その声を聞いた瞬間、クリュティエは水球をぶつけて火を消し始めた。

 死ぬよりは生きてた方がいいだろ。

 俺は魔王じゃないからな。

 とりあえずとれるモノは全部とって、全員をダンジョンの外に叩き出した。


「ねえ、マスター」


「何だ?」


「何で冒険者たちを生かして帰すの?」


 外を見つめたままクリュティエが尋ねてくる。


「お前は、自分の側から誰かがいなくなるのは好きか?」


 クリュティエはゆっくりと頭を振る。


「俺も同じだ」


 クリュティエの顔に優しい笑顔が広がり、俺の腕を掴んで洞窟の奥に引っ張っていく。

 よし、すぐにミスティの治療だ。


「クリュティエ! 水癒!」


「おけ」


 怪我が酷いのを見て取ると、仲の悪さを感じさせない態度で治療を開始した。

 ミスティは翼をぺったりと地面につけ、目を瞑って呼吸をし、おとなしく治療を受けている。

 翼は大きく切り裂かれたままだ。


 基本、コウモリ類は飛びながらでないと食事がとれない。

 治療を受けてもミスティは飛ぶことができなかった。

 クリュティエの水癒でもダメか。

 ゼニスに治療薬を注文するも、すぐに治るわけでもない。

 あれこれ考えているところにノーラ婆さんが出現する。


「婆さん、ミスティが怪我したんだ。何かいい方法はないか?」


 婆さんは傷の具合を見ながら1つの提案をしてきた。


「合成させるしかないね」


「ん?」


 何でも、合成させれば怪我がある程度改善するらしい。

 でも、コウモリだけを出現させることはできるのか?


「できる。でも、しばらくコウモリばかり召喚することになるけど、ええか?」


 ええよ! 全然ええよ! このままじゃダンジョンの危機だからな。

 攻撃の要がいなければ、俺は即、詰みなんだぜ。


「分かった」


 そう言うと早速、召喚作業に入り、すぐに血まみれコウモリを召喚する。

 婆さんは満足そうな笑みを浮かべていた。


「わしもレベルアップしとるな」


 すぐに、合成って……できないよ!


「明日まで待つのだ。大丈夫」


 そう言うと婆さんはゆっくりと消えていった。

 何だよ。今すぐ治ると思ったのに。

 ダンジョンの自然発生も血まみれコウモリだった。

 血まみれコウモリ×3なのだから、とりあえず攻撃力は安心だ。


「ミスティ。明日まで待ってろよ」


 小さく頷くミスティが健気だ。

 こんなモンスターでも言葉が分かるんだな。

 日本でダンジョンマスターをしているとき、コウモリは雑魚モンスター扱いだったけど、こいつらも一生懸命生きてて、いろいろ思ってるんだな。


 とりあえず、その日はミスティの横で寝た。


「ま、まさか。マスターはケダモノ専?」


 うざいクリュティエの声を遠くに聞きながら。

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