第8話 どうしてこうなった?
「みんなあ。楽しんでいってね~」
「お~!!」
どうしてこうなった???
最近、俺のダンジョンは地下劇場と化している。
みんな松明を振りかざし、クリュティエの歌を聞いては叫んでいる。
しかもだ。
オタ芸みたいなものまでやってるじゃん。
ペンライトがないから、松明を振って。
ポリネシアンショーみたいになってるぞ!
常磐ハワイ(スパリゾート ハアワイアンズ)かよ!
クリュティエはレベルが上がったのか、歌まで歌えるようになった。
調子に乗って、時間があれば歌ってる。
当然、相手を眠らせちまう技なんだが、それを弱めているらしい。
「私の愛は~、必ず~」
「とーど・く! ハイッ! とーど・く! ハイッ!」
……コールまで決まってんのかよ。
一糸乱れぬ動き、嫌いじゃないぜ。
「今日は~最後まで~ありがとう~!!」
「クリュティエちゃ~ん、最高~!!」
「愛してる~!!」
……最近は戦闘すらしないんだ。
それぞれが入場料みたいなのを支払って、そのまま帰ってる。
冒険者が普段着って、どうなんだよ?
ま、まあ、一応撃退にカウントされるからレベルアップしてるみたいなんだけど、いいのか?
「プロデューサー、今日のステージどうでしたか?」
汗なんか、かかないだろうに、水でそんな風に見せてやがる。
あざといわ!
アイドル気取りかよ!
無言で、顔面に空手チョップをお見舞いする。
「うう、マスター……酷いです。でも、私、負けない!」
こいつ(怒)!
両手をぎゅっと握りしめて、媚びたポーズをしやがって!
うざっ!
でも、歌は確かにうまいんだよ。
セイレーンの親戚だからかな。
今日もダンジョンマスターとしての俺の出番はなかった。
というより、ファンが前に出てくるのを押さえる警備員みたいなことをした。
何、やってんだ俺?
溜息しか、出ねえぜ。
その時、入口から荷車を引いて2組の商人がやってきた。
一人は背が低い「コンサート常連」の中年男ゼニスさん。
かっこいいとは言えないし、ちょっと油ギッシュな感じの人だ。
もう一人は女性で、こざっぱりした髪型の30歳くらいの人。
優しそうな風貌が特徴のルイスさんだ。
二人とも、俺がため込んでいるモノを買ったり、何かを売りつけたりしたいらしい。
これは渡りに船だ!
俺自身、野菜不足が気になってたからな。
「カ〇メ 野菜一日これ一本」が懐かしいぜ。
しかも二人ともコンサート? の案内もしてくれるそうだ。
ダンジョンマスターとして思うところはあるけど、ダンジョンが血で染まるよりは、そっちの方がいいからな。
ゼニスさんはクリュティエを眺めては、顔が緩みっぱなしだ。
逆にルイスさんは俺を見ながら、オススメを教えてくれる。
二人と話をして分かったことは、防具や剣などの買い取りはルイスさんの方が高いし、売っているモノはルイスさんが安いってことだ。
どっちもルイスさんがいいのか。
ゼニスさんは、まだ商売を始めたばかりらしい。
「いやあ、最近まで冒険者、やってましたから」
さっきまでコンサートに参加していたゼニスさんは、汗まみれだ。
とりあえず、二人の話を聞き、買い物をする。
二人が帰ってから、
「で、誰を御用商人にするか、だが」
と、緊急ミーティングを開いた。
クリュティエは自分のファンであるゼニスさんを推す。
実は俺もそうなんだ。
ルイスさんの買い取りが高いには理由がある。
裏でヤバいギルドと繋がりがありそうなんだ。
下手に誰かにダンジョン情報を流されたら、たまらない。
その点、ゼニスさんは安心だ。
コンサートに行けなくなったら、嫌だろうし。
ということで御用聞き商人はゼニスさんに決定!
明日のコンサートで教えてあげなきゃな。
昼飯を食べ、まったりしていると婆さんが勝手にスポーンする。
「あら、この洞窟コウモリ。血まみれコウモリになったんだねえ」
婆さんが意外そうな口ぶりで俺に話してくる。
「普通、そうなんじゃねえの?」
「普通は黄金コウモリ(ゴールデンバット)になるんだけどねえ」
煙草の銘柄みたいだな。
「あんたに、なついているからだろうね。ま、いいことさ」
そう言うと、いつもの召喚にとりかかる。
今、うちのダンジョンには血まみれコウモリ×1、角モグラ×2、地下アイドル×1となっている。
攻撃の中心がコウモリなのだ。
強いの、頼むぜ!!
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※ポリネシアンショー フラダンスとファイヤーナイフダンスショーがセット。ファイヤーナイフダンスショーは、両端に火をつけた棒をバトンのように操り、投げたり、華麗に回すのが特徴である。
※スパリゾート ハワイアンズ 福島県いわき市常磐にある大型温水プール・温泉・ホテル・ゴルフ場からなる大型レジャー施設。温泉を利用した6つのテーマパーク、ホテル、ゴルフ場などで構成される。昔は常磐ハワイと呼ばれていた。現在、年末に予約しようと思っても一度も予約できてないっす。映画「フラガール」でも有名。
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