第11話 叫び声の響くダンジョン

 異世界8日目 ダンジョン最奥 執務室にて 仲間 ノーラ婆さん、血まみれコウモリ、角モグラ、水のょぅ❘゛ょ


「うがああああ」


 大きな叫び声がダンジョン内に響く。

 俺はダンジョン最奥の執務室の椅子から、思わず腰を浮かせてしまう。

 この叫び声は尋常ではない。土壁のトンネルにも関わらず反響が耳に響くようだ。


 何が起こっているのか確かめるたびに、声の方へゆっくりと歩いていく。

 50mほど進んだとき、再び耳を塞いでしまうほどの叫び声が響く。

 その声のする方には確かクリュティエがいたはずだ。


 あいつ、水の妖精の癖に冒険者たちを血祭りにあげているのか。

 俺のダンジョンで殺人はご法度だ。その鉄の掟を忘れたわけじゃあるまいな。

 今すぐ止めないと! 俺は思わず走り出す。奴の虐殺を止めないと!!

 入口近くの部屋の扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 ……?


「みんなあ。楽しんでいってね~」


「お~!!」


 みんな松明を振りかざしクリュティエの歌を聞いては叫んでいる。

 その横で40歳ほどの冒険者が頭を抱えながら大声を上げていた。


「うがあああああああ! どうして俺はもっと早くクリュティエちゃんに出会わなかったんだあああああああああ!!」


 知らねえよ……。


 どうして、こうなった? ダンジョンは地下劇場と化している。

 しかもだ。オタ芸に激似のパフォーマンスまでやってるじゃん。

 ペンライトがないから松明を振ってポリネシアンショーみたいになってるぞ!

 『スパ〇ゾート ハワ〇アンズ』かよ!


 クリュティエはレベルが上がったため、状態異常を引き起こす声で歌を歌える。調子に乗って、時間があればどこでも歌ってる。

 相手を眠らせちまう技なんだが、それを弱めて歌っているらしい。


「私の愛は~、必ず~」


「とーど・く! ハイッ! とーど・く! ハイッ!」


 ……コールまで決まってんのかよ。一糸乱れぬ動き、嫌いじゃないぜ。


「今日は~最後まで~ありがとう~!!」


「クリュティエちゃ~ん、最高~!!」


「愛してる~!!」


 最近は戦闘すらしないんだ。

 それぞれが入場料みたいなのを支払って、そのまま帰ってる。

 冒険者がダンジョン内を普段着で歩くって、どうなんだよ?

 ま、まあ、一応撃退にカウントされるからレベルアップしてるみたいなんだけど、いいのか?


 ステージ? が終わり、俺の元へクリュティエが走り寄ってくる。


「プロデューサー。今日のステージどうでしたか?」


 汗なんか、かかないだろうに、水でそんな風に見せてやがる。

 あざといわ! アイドル気取りかよ! 何だよ、プロデューサーって。

 無言で、顔面に空手チョップをお見舞いする。


「うう、マスター……酷いです。でも、私、負けない!」


 こいつ(怒)! 両手をぎゅっと握りしめて、媚びたポーズをしやがって!

 うざっ!


 でも、確かに歌はうまいんだよ。セイレーンの親戚だからか。

 

 とりあえずステータスを確認しておく。

 水の妖精 体力31 力強さ2 魔法6 技量(攻)8/24 (防)7/24  

      習得魔法 泉24/24 水球24/24 水癒18/24 催眠の歌声14/24

      ※特記事項有り

 特記事項は変化なしだな。戦闘もしてないのにレベルアップか。

 

 翌日もダンジョンマスターとしての俺の出番はなかった。

 ファンが前に出てくるのを押さえる警備員の役割を果たしたよ。

 何やってんだ俺?


 溜息しか出ねえぜ。

 こんなんでレウコトエーさんを助けに行けるのか?


 その時、入口から荷車を引いた商人がやってきた。

 うわあ、ついに商人さんのお出ましか……って、この人、コンサート常連のゼニスさんじゃん。

 背が低くてかっこいいとは言えないし、ちょっと油ギッシュな感じの中年男性だ。


 俺がため込んでいるモノを買ったり、何かを売りつけたりしたいらしい。

 これは渡りに船だ! 

 そろそろ美味しい料理が食べたいし、いろんな道具も買いたい。

 野菜不足も気になってたからな。


 しかもコンサート? の案内もしてくれるそうだ。

 ダンジョンマスターとして思うところはあるけど、ダンジョンが血で染まるよりは、そっちの方がいいな。


 ゼニスさんはクリュティエを眺めて顔が緩みっぱなしだ。

 聞けばゼニスさんは商売を始めたばかりらしい。


「いやあ、最近まで冒険者やってましたから」


 さっきまでコンサートに参加していたゼニスさんは、汗まみれになりながらオススメ商品を見せてくれる。

 とりあえず、野菜や飲み水、スコップや薪などの燃料を購入するために、今まで冒険者から奪、んん! 寄付してもらった防具などと交換する。

 もう、すっからかんだよ。


 2日に1回は来てほしいと依頼したけど、毎日、コンサートに来てるから大丈夫だな。

 クリュティエのファンなら、出禁になる悪さはしないだろう。


 ささやかな竈に火を灯し、鍋をかけて水を入れ、他の材料も切ってドサドサと中に入れる。

 香辛料を入れて、さっそく野菜入りのスープを作り始める。

 10分ほどで完成し、皿に盛りつけパンを浸して食べる。

 優しい味だ~。

 やっぱり野菜はいいなとまったりしていると、婆さんが出現する。


「おわ!!」


 心臓に悪いよ。


「あら、この洞窟コウモリ。血まみれコウモリになったんだねえ」


 婆さんが意外そうな口ぶりで俺に話してくる。


「普通、そうなんじゃないの?」


「普通は黄金コウモリ(ゴールデンバット)になるんだけどねえ」


 煙草の銘柄みたいだな。


「あんたを慕っているからだろうね。ま、悪くはないさ」


 そう言うと、早速、召喚にとりかかる。

 今、うちのダンジョンには、血まみれコウモリ、角モグラ、地下アイドルとなっている。

 攻撃の中心がコウモリなのだ。


 強いの、頼むぜ!!


「お! これは!」


 血まみれコウモリだった。


 ノーラさんもレベルアップしてるんだな。

 な、お婆さん! って、フィギアに戻ってる。まあ、いいか。


 その後、角モグラが発生し、ダンジョンにモンスターがそろい始めた。

 角モグラも勝手にエサを食べるんだから、コスパ最強かもしれない。


 -----


 ※ポリネシアンショー フラダンスとファイヤーナイフダンスショーがセット。

  ファイヤーナイフダンスショーは、両端に火をつけた棒を操り、投げたり、華麗に回したりするのが特徴である。


 ※スパリ〇ート ハ〇イアンズ 福島県いわき市常磐にある大型温水プール・温泉・ホテル・ゴルフ場からなる大型レジャー施設。映画「フラガール」でも有名。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る