第2話 え? 何これ?

”Le gagnant est(優勝者は) ……DAISUKE(ダイスケ)!!!!”


”félicitation!!(おめでとう》”


 その瞬間、俺の目は優勝賞品である造形師テツローの一点物少女フィギアに注がれていた。

 名前は何だかよく分からないが、めちゃくちゃ美人だぜ。

 胸、スタイルが黄金比で、売りはしないが100万は下らない代物だろう。


 このフィギアを手に入れるためだけに、こんなフランスくんだりまでやってきたのだからな。

 でかいホテルの最上階のパーティールームは、どこか現実ではないような雰囲気を漂わせている。

 椅子に座ったまま周囲を見渡すと、300人くらいのフランス人が取り囲んでいる。フランスもオタクが多いんだな。

 

 ゆっくりと表彰台に上がり、フィギアと副賞のケースに入った純銀フィギア2体セットをもらう。

 ずしりと重いフィギアが、俺に大きな充足感をもたらす。黒いケースに入ったフィギアの副賞は、フランスの有名な造形師の作らしい。


 俺はそれを頭上に高らかに持ち上げる。

 その瞬間、周囲の勝算の声や拍手が痛いくらいに耳に響いてくる。


 さすが外国! 勝者へのスポットライトが半端ない。

 思わず、くらくらする。

 ま、この1週間ろくに寝てないからな。告白もあったし。


 あれ? 意識が少しずつ……遠のいてる。

 目がチカチカして、視界が歪む。ああ、前に倒れる! と思った瞬間、俺は意識を失っていた。



 §



 ん? なんか、冷えるな。

 つか、ここ、どこよ? 真っ暗なんですけど……。

 しかも、土の匂いが充満していて、思わず手を地面につく。


「冷た!!」


 思わず声が出るほど、この地面の土は湿ってる。

 手探りで湿っていない場所を探し、やがて50cmほどの平らな石を探り当てる。

 石の上に胡座で座り、ポケットに入っていた百円ライターの火をつける。

 仄かなオレンジ色の光が、俺の動悸を少し穏やかにしていく。


 明かりをかざして周囲を照らすと、横もどうやら土壁らしい。

 天井からは水滴が、たっ、たっ、と落ちてくる。

 遠くに視線を移すと50mほど先に微かな光が見える。

 あれは出口かもしれないな。俺、誘拐でもされたのか?


 混乱が俺を襲う中、


「マスター!!」


 女の声とともに、何かが俺の胸にどかんと跳び込んできた。

 そのわりには衝撃が少なく、ふにゃっという柔らかさだ。


「うひゃ」


 思わず変な声が出てしまう。

 手からライターが吹っ飛んで、また、周囲は真っ暗になった。

 暴漢に襲われてるのか? にしては、甘い匂いだな。


 その声の持ち主はライターを拾い、手探りで俺に渡してくれる。

 何も見えない中、俺はまたライターの火を灯した。

 ぼんやりと周囲が明るくなり、一人の女の子が膝をついてこちらを向いているのが分かった。

 

「マスター……」


 目をうるうるさせながら、こっちを見ているのは、テツロー作のフィギアに檄似の女の子だった。

 思わずその女の子と正座で向き合ってしまう。

 胸、スタイルが黄金比ってのは座っててもよく分かる。


 ウェーブした金色の髪が肩までかかり、きれいな肩を少しだけ隠している。

 細い腰とその上に2つ形の良い胸がついてる。

 しかも、デカい。


 薄く整えられた眉と、その下の輝いた目。

 薄暗い中でも、鼻筋が高く、ほっそりとした顎までのラインが美しい。

 唇も健康的に膨らみ、上がった口唇のために、明るく前向きな印象を受ける。


 こりゃあ、ものすごい美人さんですよ。


「大丈夫ですか?」


 俺の頬に手を伸ばし、ゆっくりと撫でてくれている。

 混乱したままの俺の心臓は、その手のぬくもりで安心を取り戻しつつあった。


「マスター! どうやら大丈夫そうですね」


「君、俺がどうしてこんな洞窟にいるのか分かる?」


「はい、マスターはゲーム会場で倒れ、そのまま意識を失われました。命の灯が消える前に、こちらの世界にお連れしたのです」


「君が?」


「はい、私は%#ですから」


 %#の意味がイマイチ分からない。ま、そこはいいだろう。


「俺……死んだの?」


「いえ、生きておられます」


 難しい原理はよく分からないけど、死んではいないことに安堵する。


「少しほっとしたよ。で、君の名は?」


「レウコトエーっていいます」


 笑顔が眩しい。

 声も可愛いのは反則だよな。

 両手をついて、こちらを覗き込んでいるレウコトエーさんの胸、でっか。


「君は、俺の仲間なの?」


「勿論です。私はマスターのものですから」


 はい? 今、何と言いました?

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