第8話 クリュティエの秘密

 異世界4日目 ダンジョン入口にて 仲間 ノーラ婆さん、洞窟コウモリ×1、水のょぅ❘゛ょ×1


 朝、起きると、期待していた膝枕はやっぱりなかった。 レウコトエーのことは夢じゃなかったんだな。


 俺は身体を半分起こし、大きく欠伸をする。

 下に敷いた麻袋は、それなりに体温を奪うことを防いでいた。でも、熟睡とまではいかないな。


「おはようございます、マスター。お水を飲みますか?」


 おわ!! 俺の顔の横30cmの所に、ょぅ❘゛ょの顔があった。

 笑顔はいいんだけど、朝から、耳の奥をくすぐられるような声はきっついな。


 俺は無表情のまま挨拶を済ませると、水は革袋に入れるように話す。

 なぜかクリュティエが舌打ちをしたような気がしたんだが、気のせいか?


 こんな時でもやっぱり腹は減る。マーガロスの袋に入っていたパンなんて、本当は捨ててしまいたい。パンの形が変わってしまうくらい、強く握ってしまう。

 でも、俺は生きなきゃいけない。悲しい思いを抱えながら、茶色の固いパンを食べ、復讐を心に誓う。


(レウコトエー。絶対に助けに行くからな!)


 そんな俺をクリュティエは疑惑の眼差しで見つめている。瞳まで綺麗なブルーなんだよな。


「マスター。ほかの女性のことを思い浮かべてますか?」


 怖え! 女の勘、怖すぎるぜ。クリュティエ、全然笑ってないじゃん。 

 しかも、別の女性って何だよ! お前がそんなことを言うのは10年早いわ!!


「そ、そんなことない。それより、まず入り口に「SB」のマークを書かないと」


 クリュティエから教えてもらったダンジョンのお約束だ。

 初心者ダンジョンは、ビギナーを示す「B」を石などに書いて、入口に置くそうだ。俺は超初心者ってことで「SB」なんだと。


 そういえば、クリュティエのステータスに変なところがあったな。

 ステータスの特記事項有りをじっと見つめていると、文字が現れる。


 ◆特記事項◆

 水の妖精は、敵からの物理攻撃を9割減少させる。ただし、植物型モンスターからの攻撃は2倍のダメージとなる。


 ふむ。植物型モンスター以外なら、前衛でも大丈夫かもしれない。

 でも、攻撃力は皆無か。


 じじっと音を立てる蝋燭を吹き消す。蝋燭はレウコトエーからもらったこの1本しかないため、ダンジョンの奥には短い時間しかいられない。

 入口近くでしか活動できない俺の不安は募る一方だ。

 

 味方は、召喚師×1、洞窟コウモリ×1、水のょぅ❘゛ょ×1なのだから……。


 ダンジョンマスターとして、溜息をつかざるを得ない。

 とにかく、いろいろなものが足りない。何より色気が全く足りてない!


 ダンジョンの構想を歩きながら考え、敵が来ないことをひたすら祈る。

 そうして、ドキドキしながらモンスターの発生を待つ。時計がないため、出てくる時間は推定時間である。


 それでも、今日も昼頃にきちんと出現した。


「洞窟コウモリ……」


 婆さんに召喚してもらったのも洞窟コウモリのため、戦力は洞窟コウモリが3匹と水のょぅ❘゛ょとなった。ステータスは前とほとんど同じなのか。

 ちょっと、羽根のバサバサ音がうるさくなってきたな。


 ここは侵入者に備えて、コウモリとクリュティエに連携の重要性を話し、倒すためのパターンを2つほど練習する。


「練習、きっつい! あ~もう、汗でびしょびしょ」


 何でこいつは、いちいち服を脱ごうとしてくるんだ?

 でも、お婆さんに聞いた所、もともと水の妖精は裸で過ごすのがデフォルトらしい。


「マスター。濡れてる女って萌えるでしょ」


 流し目をしながらニヤッと笑ってくる。 前言撤回! やっぱ、こいつダメだわ。

 お婆さん……、早く別のやつを召喚してほしいな。

 そう愚痴ると、お婆さんは俺をなだめるように優しい口調になる。


「この子は、あんたのために頑張ってるよ。そこは認めてやって。それに、この一族は呪いがね……」


「呪い?」


「ああ、伝説では水の妖精の一人が太陽神ヘライオースに恋い焦がれてね」


 聞けば、ペルシア王の娘にヘライオーオスが夢中になり、ヘライオースの寵愛を受けていた水の妖精がこれに嫉妬心を募らせ、ペルシア王に娘が密通していることを告げたらしい。

 結局、ペルシア王は娘を生き埋めにし、ヘライオースはそれを悲しんで彼女に神の酒を注ぎ、一緒に天界に連れていく。

 結局、水の妖精はもうヘライオースに振り向いてもらえず、ずっと太陽を見ながら悲しみの中、死んでいったとのこと。


「水の妖精の恋は、悲しい結末で終わることが多いのさ。それは、呪いとも言われてるがねえ」


 そうか……。

 とんだ変態だと思っていたけど、いろんなことを抱えてるんだな。

 ま、まあ、確かに文句一つ言わずに、いろいろ助けてくれてるから、基本いい奴なんだけど。


 今日はとりあえず俺の部屋(ただの洞窟)をダンジョンの一番奥に設定し、そこで寝ることにした。

 ノーラさん曰く、そろそろ危ないんだと。お婆ちゃんの知恵には素直に従っておこう。

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