第5話 これって現実なの?

 異世界2日目 どこかのダンジョン 仲間 レウコトエー、洞窟コウモリ


 「マスター。おはようございます」


 大きいッスね……。やっぱり膝枕でしたか。

 今日こそは、それ以上のスキンシップを図りたい。

 そんな俺の企みを知ってか知らずか、レウコトエーさんは無邪気な笑顔を見せていた。


 今日も異世界は太陽の光に溢れていた。外には行けないけどね。


「マスター。元の世界に戻りたいですか?」


 俺を覗き込んで話してくると、やっぱりドキドキするよね。

 それでも、こんな穴蔵暮らしは性に合わない。


「ああ、戻りたい。こんな不自由な生活は嫌だねえ」


 レウコトエーは少し悲しそうな顔をする。悲しそうでも美人。

 戻ったら、もうレウコトエーさんには会えないだろうな。


 それに、もっと大きな帰りたい理由がある。

 ミズキさんに思いっきり告白した件だ。

 帰ったら返事を聞かせてもらうことになっている。あの反応だと、ワンチャンある!

 ダメだとしても結果だけは知りたいよ。


「帰るとしたら、やっぱりフランスですか?」


「いやいや。俺は日本人だし、自分の部屋に戻りたいね」


 レウコトエーは黙って、俺を見つめている。

 さすがに喉が渇いてきたけど、お茶で口を湿らせることしかできない。

 お腹もすいているけど、少しだけしか食べられないな。

 いくらバランス栄養食でも飽きるしね。


 大あくびをした後、朝食用のカラリーメイト1本を口にくわえながら、気になっていた昨日の言葉を尋ねてみる。


「ねえ、昨日言ってた準備って何? 何か危険なの?」


「はい。危ないです」


「危ないって?」


 その瞬間、突然、太陽が見えなくなり、今まで外の風景が見えていた部分がダンジョンの通路に変わってしまった。


 え? 何これ?


 次の瞬間、俺の周りを飛んでいた洞窟コウモリが真っ二つに切られていた。

 ステータスを確認する間もなく俺に剣が突きつけられる。


「こんな馬鹿がいるから、初心者狩りは止められねえ。うひょう、ダンジョン報酬がこの女かあ。ついてるなあ」


 中世の物語に出てきそうな3人の剣士と1人の魔法使いがガチャガチャと音をたてながら俺の前に現れた。

 不思議だけど、言葉は分かるんだな。


 レウコトエーは素早く口の中で何かを呟いていたけれど、


「おっと、そこまでだ。呪文を発した瞬間、この男は死ぬぞ? いいのか」


 呪文を唱えるのを諦めたレウコトエーの口に、布の猿ぐつわがはめられ、両手も後ろ手に縛られる。


「今まで見たこともねえくらい綺麗な娘ですね。また、胸もでけえな」


 思わず見とれてしまう剣士達をよそに、ボスらしい魔法使いは俺の頭に手を載せて、低い声で俺に話しかけてくる。


「ま、気の毒だが。決まりは決まりだ。お前には2つの選択肢がある。降伏するか、俺たちに殺されるか。すぐに選びな」


 これって実質1択ですよね?

 俺は降伏すると伝えると、周りの剣士達が俺の頭を押さえつけて地面につける。

 鉄臭い大地の匂いが鼻腔に充満して気持ちが悪い。


「マーガロス様、降伏します。命だけはお助けくださいと言うんだ!」


 俺は地面につけられた口を開くと、その通りの言葉を発する。

 口の中に砂が入ってきて、ジャリジャリする。

 その瞬間、レウコトエーの身体が黄色に光り、その光が収まると男達は猿ぐつわをとる。


「お前の名前は?」


 マーガロスが話すと、レウコトエーは自分の名前を告げる。


「お前の主人は誰だ?」


「マーガロス様……です」


 は? どういうこと?

 このおっぱいは俺んだよね?


「誓いの言葉はどうした?」


「マーガロス様に誠心誠意仕えます。どうか、可愛がってください」


 マーガロスは高笑いを響かせ、俺を壁に放り投げる。

 背中が強く壁にぶつかり、息が出来ねえ。


「ああ、可愛がるさ。1週間は寝かせねえ。二人でたっぷりと楽しもうじゃねえか」


 俺は3人を睨み付けることしかできず、痛みで満足に身体を動かせない。

 周りの剣士達の羨ましそうな顔がむかつくぜ。


「こんな幸運をもたらしたお前にプレゼントだ。お前、このダンジョンから出られねえだろ」


 男は俺に向かって背負っていた麻袋をどさっと投げつけてきた。


「水と食べ物だ。そういやあ、お前、他に何か持ってるか?」


 俺は黙って頭を振りながら、考えを巡らせる。スーツケースに入っているフィギアが見つかるとまずい。

 どうか、気がつかないように。

 ああ、無情にも剣士達は俺の近くに寄ってきてやがる。

 全て没収になるのか。


「マーガロス様、早く行きましょう。最後に、この男にアドバイスを差し上げては」


 レウコトエーが艶めかしい声でマーガロスに寄りかかる。

 剣士達はその声にあてられ、思わず声の方を向いてしまう。


「分かった。じゃあ、アドバイスをしてやるよ」


 剣士達に合図をし、自分たちのダンジョンに戻らせると、俺に3つのことを話し始めた。

 ダンジョンマスターが倒されるか降伏すると、攻略報酬が必要となること(価値のある宝物か一番レベルの高いモンスター)。

 ダンジョンマスターのレベルが上がれば、出現するモンスターのレベルも上がること。

 他のダンジョンを攻略するには、商人などの助けが必要なこと。

 

「あと、一番いいのはダンジョンマスターを辞めることだ。ダンジョンから出られるし、普通に生活できる。だが、もう二度とダンジョンマスターにはなれない」


 そういうと、レウコトエーを自分の脇に抱き寄せる。

 レウコトエーは、無表情のままそれを受け入れている。


「あ、あとダンジョンマスターには異世界人しかなれないぞ」


 そう話した瞬間、レウコトエーはぐいっとマーガロスの手を引っ張る。


「もう、行きましょう」

 

「おお。じゃ、ありがとな。最後に、ダンジョンの入り口に初心者用とか石で案内を出しておいた方がいいぞ」


 そういうと、男達は高笑いで自分のダンジョンの方へ歩いて行った。

 その瞬間、ダンジョンの入口に外の景色に広がり、明るさが戻ってくる。


 え? これ、現実なの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る