第2話 敵の本性(※三人称)

 。彼の刀で倒せないわけではないが、相手の体に刃が食い込む。軟骨辺りは一撃で潰せるが、骨が太い部分には一撃、二撃、最悪は五撃くらいの攻撃が必要だった。相手の体から刀を抜き、その胸や腹、背中などに蹴りを入れた時も、それが刀でない事で、倒すのに時間が掛かってしまった。


 流人は相手の顔に肘鉄を入れると、隣の敵には刀を突き刺し、正面の敵には蹴りを入れ、後ろの敵には回し蹴りを入れて、左側の敵に「このっ!」と向きなおった。「しつこい!」

 

 そう叫んだが、それで止まるわけがない。彼の声を無視して、その体を襲いつづける。彼の刃に打たれ、蹴りに負け、肘鉄に倒れ、拳に飛ばされても、その戦意を燃やしつづけた。


 流人はそんな態度に呆れながらも、遠くに見える城が「敵の拠点だ」と思って、自分の刀を「ぶんぶん」と振りつづけた。コイツらを倒さなければ、あの城に辿り着けない。「面倒だが、それでも! 俺がやらなきゃ」

 

 流人は正面の敵に体当たりして、今の場所から少しだけ進んだ。それに合わせて、骸骨達も彼の侵攻を阻んだ。流人が「進みたい」と思うのと同じ、彼等も流人を進めたくない。明確な指揮官は居ないが、味方の損失を補う思考、発想、行動は、下手な指揮官よりも優秀だった。


 彼等は流人の脚を止め、それが少し進んでも、「これ以上は、進めない」と言う姿勢で、彼の侵攻を阻みつづけた。流人も「それに負けじ」と応じ、相手の攻撃に刀を当てて、その体を一歩ずつ、でも確実に進めつづけた。「死ね、クタバレ!」


 相手は、それに怯まなかった。攻撃に怯まない意思があるのか? それとも、意思自体が無いのか? 流人の攻撃を食らっても、その進行を止めなかった。骸骨は彼の腕に噛み付いたり、背中の上にのし掛かったり、腹の部分を引っ掻いたりして、相手の侵攻をずっと食い止めつづけた。


 流人は、その抵抗に怯んだ。骸骨の攻撃はほとんど効いていなかったが、正直に言って疲れる。地味な攻撃で地味に体力が削られていた。彼は相手の攻撃をすべて捌き、全方向の全攻撃を打ち破って、城の前に何とか辿り着いた。「このぉ、はぁあああっ!」

 

 疲れと苛立ちから、そう叫んでしまった。骸骨はまだ、自分の後ろで動いている。今までのような抵抗は見せなかったものの、流人が城の中へと入れるように、つまりは「罠」が動くように、明らかな意思を持って、城の中に彼を閉じ込め、その出入り口も(自分達は入っていけるように)縮めてしまった。

 

 流人は、その光景にも苛立った。「神の加護がある」とは言え、これでは嬲り殺しである。相手が城の出入り口を塞いでいないのも見ると、流人の逃げ道を無く、そんな意図しか考えられなかった。


 城の罠か何かで流人を仕留められなくても、そこから逃げてきた流人を城の出入り口側から迎え撃てば良い。戦いの都合上、敵側に攻め入るしかない流人だが、こんな風に弄ばれるのは、流石に「悔しい」と思ってしまった。流人は額の汗を拭って、背後の敵を、そして、正面の城にも敵意を向けた。

 

 敵はもちろん、その敵意に怯まなかった。背後の骸骨達もそうだが、前方の城も同じ。無人の不気味さを出して、彼の脚を誘っていた。


 流人は、その空気を無視した。罠の可能性は忘れていなかったが、今は前に進むしかない。周りの景色を一つ一つ、道の造りや囲いの構造、城の様子までも確かめて、城門から続く道を歩きつづけた。


 流人は僅かな異変(と思った)にも注意を払って、「停止」と「前進」の動きを繰り返した。だが、「あれ?」

 

 そう思った瞬間に脚を止めた。本丸へと通じる道を進んできたが、一向に辿り着けない。周りの風景自体は変わっているが、肝心の場所にまったく辿り着けなかった。城の敷地内から本丸を眺める構図、それがずっと続いていたのである。


 流人は敵の城をしばらく見つめ、そしてまた、目の前の景色に視線を戻した。「どうして?」

 

 そんな風に困った。森の中ならまだしも、ここは敷地の中である。多少は入り組んでいても、こんなに迷う筈はない。大きな道を進んで行けば、いつかは本丸に辿り着く筈だった。流人は城門の方を振り返って、そこに今も居るだろう骸骨達を思った。


 アイツ等の敵は、自分に向けられている。「馬」の存在にはたぶん、気付いていない。今頃は、山の中に身を隠している筈だ。そこに居れば、骸骨の攻撃からも逃れられる。こんな序盤で死ぬ必要はない。

 

 流人は馬の命を思う一方で、目の前の城にも意識を向けた。コイツを倒せなければ、馬の所に帰られない。「名馬」と飛ばれる彼の馬でも、この数には決して敵わないだろう。山の中を一気に駆け上る。そうして、流人の国に帰るしかなかった。

 

 流人は自分の馬を案じながらも、正面の敵に攻撃を定め、城の中を走っては、その突破口を探しつづけた。だが、おかしい。先程も同じだが、何度回っても城に着かない。同じ所にまた、戻ってくる。「これは、反対回りでは?」と思って逆向きに進んでも、同じ所にまた戻ってきてしまった。流人はその状況に怯んで、自分の四方を見渡した。「……罠だ」

 

 流石にそう思った。今までの事を振り返れば、そう考えるのが自然である。(見掛けでは)入り組んでいない城の中で、こんなにも迷う筈がない。城の中に特別な仕掛けがあるのか? それとも、迷うように仕向けられているのか? そのどちらしか考えられなかった。


 流人は自分の顎を摘まんで、城の本体を見、自分の後ろを見た。彼の後ろでは、あの骸骨達が蠢いている。「俺が止まるのを待っているのか?」

 

 城の攻略を諦めて、その出入り口に戻ろうとする俺を。その無骨な眼差しで、待っているのかも知れない。流人は骸骨達の気配に眉を寄せ、それにしばらく苛々したが、「それでは、何も始まらない」と思って、城の攻略法をまた考えはじめた。「普通の方法では、ダメだ」

 

 地面の上を進んで、その出口を見つける方法。普通の人間が考える、普通の進み方。その固定観念に捕らわれては行けない。あの城を目指すためには、「普通」とは違う特殊な方法が「必要だ」と思った。


 流人は今の場所を行き来しつつも、城の塀をしばらく見て、そこから妙案を、「妙案」と思える策を考えた。「やって見るか? 上手く行くかは、分からないけど」

 

 このままでいるよりは、ずっと良い。何かの方法を見つけなければ、ここからずっと抜け出せないのだ。出入り口の骸骨達を潰し、城の中から出ても、あの霊峰に戻るしかない。流人は「それはダメだ」と思って、塀の上をよじ登った。


 通常の城は板塀だが、ここは土塀(かな?)らしい。流人が塀の上に昇っても、足下の造りがしっかりしていて、そこから周りの景色を見渡せた。塀の上から地面を見下ろす、そんな事も余裕で出来る。通路の先に何があるのか? その様子もまた、すぐに見下ろせた。

 

 流人は「それ」をしばらく見て、通路の先に「え?」と驚いた。通路の先が見えない。下に居る時は分からなかったが、通路の先が延々と伸びていた。「終わりのない通路」と言う風に。真っ直ぐな通路がずっと伸びていたのである。

 

 流人は、その光景に愕然とした。目の錯覚か? それとも、城の仕掛けか? その真実は分からないが、自分は城の魔力に魅せられていたらしい。普通の感覚が普通に働かなくなる、そんな魔力に魅せられているらしかった。


 彼はそんな恐怖に怯えながらも、塀の上を歩いて、敷地の中をまた歩きはじめた。地面の上がああなっているなら、違う場所を攻めるしかない。彼は敵の作戦に「凄いな」と唸って、自分の頭を掻いた。「敵が一人でも、手を抜かない。俺達は今、そう言う相手と戦っているんだ」

 

 だからこそ、進むしかない。そう思った彼に「ニヤリ」と笑ったのは、誰か? 流人はその気配に気付かないまま、自分の周りを何度も見渡して、塀の上をゆっくりと進みつづけた。

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落ちこぼれの武士、戦神(かみ)の力を得て、人間(ひと)の敵を討ち果たさん 読み方は自由 @azybcxdvewg

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