エピローグ

 妊娠中期に入ったルナ。

 安定期に入ったので、自身の妊娠を国全体に公表した。

 それにより、ナルフェック王国全体がお祝いムードになっていた。

 女王としての仕事も出来る範囲でやっているが、シャルルを始めとする周囲にも頼っている。


「ルナ、何か表情が明るくなったね」

 キトリーがヘーゼルの目を嬉しそうに細める。

 現在は休憩中なので、キトリーには砕けた態度を許しているルナである。

「……そうかもしれないわね」

 ルナは品良く微笑む。

 相変わらず相手に考えを読ませないミステリアスさはあるが、憑き物が落ちたような雰囲気である。

「今まではもしかしたらマタニティブルーだったのかもしれないね。妊娠初期はホルモンバランスの影響で色々あるからさ。中には過去のトラウマを思い出す人もいるみたいだし。でも、そういうのを甘く見たらいけないよ」

 さっぱりと笑うキトリー。しかしヘーゼルの目は真剣そのものである。

「そうね。だけど……良い結果を生み出せたわ」

 ルナは窓の外に目を向けた。

 穏やかな天気である。

 自身の不安や過去の選択を包み込んでくれたシャルル。

(わたくしも、親になるのね)

 穏やかな表情で、ルナは少し大きくなり始めたお腹に触れた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 その後、シャルルと共に王宮の薔薇園をゆっくりと歩いていた時のこと。

 冬であるにも関わらず、品種改良した薔薇が咲き誇っている。

「あ……」

 ルナは立ち止まる。

「ルナ様、どうかしましたか?」

 シャルルは少し心配そうに覗き込む。

「今、子供が動きましたわ。お腹を軽く蹴られた感覚がありました」

 ルナは自身の腹部に触れる。

「僕にも触らせていただけますか?」

「ええ、どうぞ」

 ルナはそっと自身の手を腹部から離した。

 するとシャルルが優しく宝物に触れるかのように、ルナの腹部に手を持って来た。

 サファイアの目は、愛おしそうにルナとお腹の中の子を交互に見る。

 シャルルの大きな手が、ルナの腹部をそっと撫でる。

 すると、ピクリと反応があった。

「動きましたね」

 シャルルは嬉しそうにサファイアの目を細めた。

「ええ」

 ルナも、嬉しそうにアメジストの目を細めるのであった。


 数ヶ月後、年が明けてもうすっかり春になっていた。

 王宮の一室で、元気な産声が響き渡った。

 ルナは無事に男児を出産したのである。

 無事に出産を終えたルナは、ずっと側にいてくれたシャルルと共に、生まれて来た子供を愛おしげに見つめている。

 月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪に、アメジストのような紫の目の男児である。

(これからは、シャルル様とこの子と共に……)

 ルナは晴れやかな表情である。

 アメジストの目は真っ直ぐ未来を見据えていた。

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